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「偽性コロナ後遺症」という病い

2022/05/23
谷口 恭(太融寺町谷口医院)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患し数週間が経過しても何らかの症状が残っているケースに僕が初めて遭遇したのは2020年3月。以前から当院をかかりつけ医にしている30歳代の女性が最初の患者だった。当時から、COVID-19に対する不安から様々な不定愁訴を訴える患者は少なくなかったが、この女性は僕が長年診てきた経験からいってそのようなタイプではない。COVID-19が関与しているに違いないと確信し、今後同様のケースが相次ぐだろうと考え、それを「ポストコロナ症候群」と名付けた。本連載で最初にポストコロナ症候群について紹介したのは2020年5月8日のコラム(長期的視野で「ポストコロナ症候群」に備えよ!)だった。

 2020年春の時点ではPCR検査はごく限られた事例でしか実施できず、その後抗体検査が普及し始めたが、当時出回っていたキットは信頼度が高くなく、また保険適応もなかった(現在もない)ために「コロナ後遺症です」と言われても、それを確かめる術がなかった。先述した30歳代の女性のように、日ごろから診ている患者であれば「コロナの後遺症と考えて間違いない」と臨床的に確信できるのだが、初診の患者で、既往に精神科通院歴がある場合などは特に、「本当に後遺症なのか」、さらには「その発熱や倦怠感も本当にCOVID-19だったのか」と疑わざるを得ないケースが少なくなかった。

 その後、さらに話は複雑になる。症状があれば誰もがPCR検査を受けられるようになると、ごく軽症からそれなりに重症化した例まで、当院のかかりつけ患者も次々にCOVID-19の診断がつきだした。それに伴い、軽症のものや(後述するように)持病の悪化も加えれば、COVID-19に罹患した患者の1~2割程度に何からの後遺症と思われる症状が認められた。

 そのうちに、もともと精神状態が不安定で不定愁訴が多いようなタイプの患者に後遺症が多い傾向があることがよりはっきりとしてきた。しかも訴える症状は、倦怠感、頭痛、抑うつ感など客観的な評価ができないものばかりだ。しかし、症状はそれなりに深刻で「心因性」などという言葉では片づけられない例も多い。この原因が「脳の炎症」ではないかと考えて、本連載で2021年6月2日に「ポストコロナ症候群の謎が解けたかもしれない」を執筆した。

 複雑な話はまだ続く。後遺症が半年を越えるあたりから、倦怠感と抑うつ感が強くなり、日常生活にも影響が出る事例が少しずつ目立つようになり始めた。こういった事例は中年女性に多く、ME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)の病態に酷似しているのだ。酷似というよりはむしろ「同じ疾患」と考えるべきかもしれない。そういう観点からまとめたのが2022年2月8日の「ポストコロナ症候群とME/CFSの共通性」だ。

 このように、後遺症が長引くと、(1)画像データや採血結果で客観的な異常値が出ず、(2)倦怠感や抑うつ状態といった、内科というよりはむしろ精神科領域の症状が主となり、(3)ME/CFSという、もともと診断・治療が困難な疾患との鑑別が難しい病態となり、狭義の内科学では扱いにくくなる。しかし、その一方で、CTで間質性肺炎を示唆する像が残り、DダイマーやCRPといった感染時に上昇するマーカーが依然高値を示しているような、内科医が得意とするいわば「分かりやすい後遺症」も存在する。

 そこで、これらの後遺症を僕なりに分類してみた。もともと僕は後遺症には様々な症状が出現して、つかみどころのない疾患になると考えていたため「症候群」と呼ぶべきだと判断し、だからこそ「ポストコロナ症候群」という病名を勝手に付けた。国内外で人口に膾炙してきたのは「long-COVID」だと思われるが、僕は「ポストコロナ症候群(Post Covid syndrome)」の方が適していると考えている。その分類は次の5つになる。

著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

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