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「彼」「彼女」「ご主人」「奥さん」「結婚」こんな言葉は慎重に!

 過去にも何度か述べたように(例えば、医療者が知らねばならないセクシャルマイノリティの権利)、僕は以前からLGBTという言葉に違和感がある。その理由については既に述べたが、ここでもう一度繰り返しておくと「L、G、B、T、ストレートのいずれにも属さない人が少なくない」ことと「セクシャルアイデンティティは(例えば、ストレート→レズビアン→バイセクシャル→再びストレートなどというように)流動し得る」と考えているためだ。

 だから、敢えて「LGBT」などという言葉を使わなくても「セクシャルマイノリティ」で十分ではないか、というのが僕の意見だ。そして今回取り上げたいのは最近急速に認知度が上昇しているキーワード「ノンバイナリー(nonbinary)」。本コラムでは、そのノンバイナリーについての私見を述べる。

 ノンバイナリーという言葉が日本で一気にメジャーになったのは宇多田ヒカルさんの影響が大きい。報道によれば、2021年6月26日、インスタライブ中に自身がノンバイナリーであることを宣言したそうだ。

 ノンバイナリーとは自身の性自認が決まっていない人たちのことを指す。似たような言葉に「Xジェンダー」と呼ばれるものもあり、これら2つは異なるとする意見もあるようだが、実際にはさほど区別しなくてもいいのではないかと個人的には考えている。また、Xジェンダーという表現は日本特有のものとする話もあるが、英語ネイティブにも通じることもある。ただ、海外ではnonbinaryの方が普及しているのは間違いない。

 ノンバイナリーは性自認を表す表現であり、性的指向については様々なパターンがある。例えば、生物学的な性が男性のノンバイナリーの性的指向が、男性の場合も、女性の場合も、双方の場合も、あるいは「よく分からない」という場合もある。生物学的性が女性のノンバイナリーでも同様だ。

 他の似たような表現として「ジェンダーレス」もあるが、これは性自認を示すときには使わない。「わたしはノンバイナリーです」とは言えるが、「わたしはジェンダーレスです」とは使わず、「わたしはジェンダーレスなファッションが好きです」のように用いる言葉だ。

 では日本の人口のどの程度がノンバイナリーなのだろうか。当院の経験でいえば、(ノンバイナリーという言葉を使うかどうかは別にして)「性自認がよく分からない」と我々にカミングアウトする患者は年に数人程度はいる。もっとも、わざわざ僕や当院のスタッフに言う必要もないと考えている人の方がずっと多いだろうから、それなりに大勢の人がノンバイナリーなのかもしれない。また、自身がノンバイナリーであることに気付いていない人も多いに違いない。宇多田ヒカルさんも、デビューした10歳代の頃にはそう思っていなかったのではないだろうか。

著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

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