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これからの大麻の話をしよう

 本連載では繰り返し(違法)薬物の問題について問題提起をしてきた。覚醒剤、ブロン、ベンゾジアゼピン、鎮痛薬などを取り上げ、(狭義の)麻薬についてはタイのメサドン療法や寺で実施されている特殊な治療について紹介したこともある。今回のテーマは「大麻」。

 依存症に詳しい英国のジャーナリスト、ヨハン・ハリ氏が最近上梓した『麻薬と人間 100年の物語』では、日本は大麻よりも覚醒剤を摂取する人口が多いまれな国と述べられている。また、薬物に詳しい心理学者の原田隆之氏の著書『あなたもきっと依存症「快と不安」の病』でも、日本では大麻よりも覚醒剤がまん延していると指摘されている。

 だが、僕は彼らのこの指摘は事実ではないと思っている。検挙されないから正確な実態が把握できていないだけで、実際には若者を中心としたかなりの日本人が大麻を使用しているのは間違いない、と僕は思っている。僕の印象としては日本人の大麻使用者は少なくとも覚醒剤の10倍以上にはなる。

これは医師としての体験から言っているのではなく、医師になる10年以上も前の一つ目の大学生の頃の経験からそう考えている。僕自身に使用歴はないが(過去にも述べたように、いざというときに根性のない僕はブロンやベンゾジアゼピンにも手を出したことがない)、周囲の薬物にはまっていく悪友たちは「ハルシオンよりも大麻の方が簡単に手に入る」と豪語していた。

 では、なぜ調査しても正確な数字が反映されず大麻使用者の実態が明らかにならないのか。答えは簡単で、「誰も真実を話さないから」だ。うかつに大麻の経験があるなどと言ってしまえば情報が漏れて逮捕されるかもしれない。個人使用なら実刑をくらうことはないにせよ、生涯にわたり「大麻使用者」のレッテルを貼られて生きていくリスクを取るようなばかなことは誰もしないというわけだ。

 だが、若者の薬物摂取の実態にせまった貴重な研究もある。2013年1月にPsychiatry and Clinical Neurosciences誌に掲載された日本人を対象とした研究によると、東京のレイヴパーティーに参加していた若者に匿名でアンケートをした結果、大麻使用率はなんと32.7%にも上るのだ。

 レイヴパーティーに参加するのは大学生だけではないし、全ての大学生がレイヴパーティーに参加するわけでもないが、都心部の大学生に匿名で(絶対に身元が分からないことが保障され)同様の調査が行われたとしたら、ここまで高くはないにせよ、年間の検挙者の何十倍もの若者が「経験あり」と答えるのではないだろうか。

 最近のメディアの報道では大麻使用者が増えたような表現も目立つ。2021年4月8日、警察庁は2020年の大麻取締法違反の摘発が過去最高の5034人となったことを発表した。しかし「過去最高」なのは「摘発」であり「実際の使用者数」ではない。同年の覚醒剤の検挙は8471人と同日に発表されたが、これは、「検挙数」が「覚醒剤>大麻」であることを言っているだけであり、「実際の使用者数」は「大麻>>>覚醒剤」だろう。ちなみに、先述の東京における研究では覚醒剤ユーザーは6.3%で大麻ユーザーの5分の1以下でしかない。

著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

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