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三密、検査内容の開示拒否、野放しの新型コロナPCR

 加速度的に進行しているワクチン接種がこのまま続けば「元の世界」に戻れるのでは?という楽観論が世間からちらほらと聞こえるようになってきたが、医療者としてはそういう意見に同調するわけにはいかない。

 ワクチン禁忌者(打ちたくても打てない)やワクチン忌避者(打てるけど打ちたくない)も一定数存在する上、ワクチンを接種しても抗体が形成されず予防できない人も少数ながらいるだろうし、今後既存のワクチンでは効果がない変異株が登場する可能性だってある。

 よって、市民からみれば、簡単で正確で(できれば)無料のPCR検査がいつでも受けられる体制が望ましい。今回は、当院で経験した事例を紹介し、現在のPCR検査の問題点を整理し、今後のあるべき姿を探っていきたい。

 その前に触れておかねばならない問題がある。PCR検査をどこまで広げるべきかだ。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は無症状でも感染させる可能性があることが指摘された2020年2月の時点で、僕自身は「検査は希望者全員にすべき」という考えを主張した。しかし、当時はこの意見は少数であり、多くの識者は「検査は重症例に限定すべき」という立場だった。

 感染症拠点病院の医師の立場に立てば、貴重な病床を軽症者(や無症状者)に使うわけにはいかないから、「陽性即入院」の規則下では「検査を絞れ」と考えるのは理解できる。他方、僕らのように、軽症も含めて「コロナかもしれない……」と不安を訴えてくる患者を診ている立場からは「(偽陰性の可能性を理解してもらった上で)希望通り検査をすべきではないか」という考えになる。

 当時は軽症のみならず「重症」例も検査を拒否されていた。当院から保健所に繰り返しお願いしても検査を拒まれ、やむを得ず“不明熱”という名目で大きな病院に入院させてもらい、入院後にコロナ陽性が判明した事例は過去の連載(発熱患者の診療拒否で行き場のない患者が続出)でも紹介した。

 そのような状況の中、当院では検査会社に交渉し独自でPCR検査を担うことにした。検査会社によれば当院が大阪で初めてPCR検査を開始したクリニックだったらしい。当初は臨床的にCOVID-19を疑う事例のみに絞るつもりだったが、過去のコラム(「渡航先の入国審査でPCR陰性証明が必要なんです!」にどう対応すべきか)で述べたように、「生き別れた夫に二度と会えなくなる……」と訴えた、夫をインドネシアに残して一時帰国していた妙齢の女性からの訴えがきっかけとなり、海外渡航者に対するPCR検査も開始した。

 パニックはすぐに訪れた。検査の対象を「当院をかかりつけにしている患者もしくは海外渡航者のみ」としたのだが、「どこからも断られている。なんとか検査をしてほしい」という依頼が相次ぎ、当院の電話回線はパンク。通常の診察にも影響が及んだ。依頼を断ると、受話器の向こうの声は「お願い」から「怒り」、そして「罵声」に変わっていく。直接やってきた検査希望者にスタッフが断り切れずやむを得ず検査をした者が「当院の対応が悪い」と保健所にクレームを入れたこともあった。当院は比較的クレームには慣れている方だと思っていたが、これだけ毎日のように暴言を浴びせられると当然スタッフは疲弊する。

 そんな中、PCRを積極的に実施することをうたった新しいクリニックが大阪にも複数登場し、また民間の検査会社が郵送で検査を扱うようになり、駅近くには民間の検査場が登場した。「商魂たくましい」「正確さは担保されるのか」など批判の声もあったが、PCRの問合せに辟易としていた当院からみればこれらは有難い存在だった。いつのまにか渡航者向けのPCRを実施する医療機関も増え、今や当院でPCRを担うのは、発熱外来と、再診の海外渡航者かその家族や知人がほとんどで、あとは日本語のできない外国人くらいとなった。

著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

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