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大勢の覚醒剤使用者をみてきて考えること

 医学部に入学してから現在に至るまで四半世紀がたつ。その間、報道されるたびに、最初は驚き、戸惑い、怒りが生じ、そして今では別の感情を抱くようになったのが医師の違法薬物摂取だ。

 他の職種なら恐らく報道されないような医師の違法薬物事件は少なくない。社会的責任が重い医師だからこそ報道の価値があるのだろう。最近では、2021年2月にマスコミ出演で有名な東京の医師が覚せい剤取締法違反で逮捕された事件が派手に報道されていた。

 昨年(2020年)で言えば、大阪府枚方市の医療機関勤務の20歳代女性医師がコカインと大麻リキッド保持で逮捕された。その半年ほど前には大阪府高槻市の30歳代男性医師がコカイン所有で逮捕された。報道によればこの医師は10年前から違法薬物を使用していたそうだ。

 医道審議会医道分科会の答申を受けて年に一度発表される医師の行政処分でもほぼ毎年違法薬物で医師が処分を受けている。これだけ頻繁に報道されると、最近は「またか……」と感じ、そのうちに記憶が薄れていくことが増えてきたが、今も強烈に印象に残っている事件もある。その中から2つの事件を振り返っておきたい。

 1つは1998年4月に起こった兵庫医大の医師4名が覚せい剤取締法で逮捕された事件だ。これはそれまでの僕が抱いていた医師に対する「像」が崩れ去った出来事で、この報道を知ったときの衝撃は今も忘れられない。

 当時の僕は29歳、医学部の3回生。秀才ばかりの同級生たちとは異なり、凡人の僕はとにかく勉強量では負けてはいけないと必死だった。ほとんどの学生が有名進学高校出身者なのに対し、僕の高校は医学部入学など数年に1人いるかいないかといった田舎の公立高校。しかも僕はその高校でも成績は下の方だったのだ。頭の良さでかなうはずがないのは当然として、医学部の若い同級生たちはきっと優れた人格を持ち合わせているに違いないと思っていた。

 入学して3カ月が過ぎ夏休みに入る頃には、そんな秀才たちも実は普通の若者で、恋愛や将来の進路に悩むんだと、その意外性に驚いたこともあったのだが、それでも僕の医師に対する「像」は崩れていなかった。高い道徳観を持ち、誰からも尊敬されるような人物、それが当時の僕の医師に対するイメージだったのだ。

 そのイメージを一気に崩壊させたこの事件を当時の報道から簡単に振り返っておこう。

著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

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