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ヒルドイドをめぐる無用なストレスに思うこと

 数カ月前のある日曜日の朝、大阪府下のあまりなじみのない街を歩いていた時、小さな薬局の入り口に気になる張り紙を見つけた。そこには「医療機関と同じヒルドイドが処方箋なしで買えます」と(いう内容の案内が)書かれていた。
 
 処方箋の必要な薬を処方箋なしで販売するのは違法ではないか。筋が通らないことを見逃すわけにはいけない。その薬局に文句を言おうと考えたが、この日は日曜日で休業日のようだ。わざわざ日を変えて再来するには気が引ける。それに、法律上許されないとしても、ヒルドイドを薬局で販売してもらえるのは医師からみてもありがたいのだ……。

 既に数年前からメディアでも報道されているように、薬としてではなくスキンケア製品としてのヒルドイドを求めて医療機関を受診する者がいることが問題になっている。ここではこれを「ヒルドイド問題その1」と呼ぶことにしよう。

 実際に、「(皮膚疾患があるわけではないけれど)化粧水代わりにヒルドイドがいいって聞いたんで……」と悪気もなく求めてくる患者(患者ではないが)も少なくない。「類似品でなく“本物の”ヒルドイドがほしい」と言われることも多い。「皮脂欠乏性皮膚炎という病気がないと保険では出せないんですよ……」と言って、喜ぶ患者(患者ではないが)などいるはずがない。

 こういう説明をした直後に一悶着起こることもある。暴言を吐かれたこともあるし、「ネットに悪口を書くぞ」と言われたこともある。暴言やネットの悪口程度で心がぶれることはないが、こういう意味のない会話で大切な診察時間が削られるのが嫌なのだ。だから僕は「ヒルドイド(およびその後発品)を医薬部外品にしてほしい。それが無理ならせめてスイッチOTCにしてほしい」と言い続けている。15年前に開業した時点から当院にやってくる歴代のマルホのMRたちには繰り返し訴え続けている。

 見知らぬ街で偶然見つけた上述の薬局が違法行為をしていたわけではないことがようやく分かったのはつい最近だ。この薬局は「零売」をしていたのだ。前回述べたように、零売とは処方箋がなくても販売できる制度のことで約7500種の薬が対象。ヒルドイドもその後発品も零売可能だ。ヒルドイドを零売してくれれば診察室で無駄なストレスに悩まされることはない。例えばこんな症例……。

著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

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