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チャレンジシートでスタッフのビジョンを知ろう

2020/12/09
谷口 恭(太融寺町谷口医院)

 日本人は大企業志向の人が多いようだが、小さな企業で働きたいという人もそれなりにいる。同様に、大病院に就職することを望む人が多い一方で、当院のような小規模クリニックを希望する人も少なからずいる。就職時の面接では看護師にも事務員にも「なぜ大病院ではなく、当院のような小さなクリニックを希望するのか」を全ての応募者に尋ねている。

 看護師の場合は「夜勤がないから」という理由もあるだろうし、これが志望動機の一つになってもいいと思うが、僕が知りたいのはもう少し踏み込んだことだ。看護師には「勤務時間以外で大病院とクリニックでは働くことにおいて何が違いますか」と聞いている。

 当院の経験上、看護師でも事務員でもこの質問にちゅうちょする人は入職しても大抵うまくいかない。なぜなら「当院で何をやりたいか」のビジョンを持っていないからだ。当然のことだが「本当は大病院で働きたいけど受からなかったからクリニックを希望している」とか「大病院はしんどそうだからクリニックがいい」と考えている人を採用することはまずない。

 もちろん応募者がこのような直接的な言葉を使うわけではないが、面接で幾つかの質問をすると、内容のみならず答え方や表情などから応募者の考えがみえてくる。「本当は大病院希望だが……」という生半可な気持ちで仕事が務まるはずがないし、こちらとしてもそういう考えの人の人生を向上させるのに貢献できることはないだろう。

 大病院(や大企業)が悪いと言っているわけではない。特に医療者は最初の頃は大きな病院でしか学習できないことをしっかりと学んでおくべきだ。個々の技術や知識の習得、経験できる症例の豊富さのことだけを言っているのではない。他部署との関わりや、行政や大学など他の組織とのつながりも学ぶことができるわけで、大病院での勤務がものすごく勉強になるのは間違いない。そして、そのまま同じ組織で定年まで勤務することが悪いわけではないし、別の大きな組織に移ることを希望する人もいるだろう。

 だが、「大病院だからできないこと」に気付く僕のような者もいる。この連載でも何度か述べたように、僕が開業を急いだのは「大病院では診られない患者」「大病院には来ない患者」を診たいと思ったからだ。だから僕には開業前からクリニックで何をしたいかというビジョンがあったし今も持ち続けている。そして、それを会議の場などを利用して繰り返しスタッフに伝えるようにしている。

 院長の僕だけでなく、看護師も事務員もそれぞれのビジョンを持たなければならないと思っている。面接時にはそれを尋ねるわけだが、入職後の業務を通してそのビジョンがより具体化されたり、修正されたりすることもあるだろうし、そのビジョンに向かって進んでいるのなら進捗状況を聞いてみたい。よって、定期的にスタッフ全員と個別にきちんと話をする時間が必要だ。

著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

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