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新型コロナの「風評被害」への谷口流対応策とは

2020/10/28
谷口 恭(太融寺町谷口医院)

 前回のコラムで、自施設での新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検査実施に消極的な意見が医師の掲示板にあまりにも多く驚かされたことについて述べた。今回はその続き。なぜ、検査に消極的なのかの理由として「検査をすれば風評被害が生まれる」としているものが目立つ。

 なぜ「新型コロナかもしれない。早く診てもらいたい」と考えている患者を診察することで風評被害が起こるのか。いつか自分も感染してしまうかもしれないと考える人たちの立場からすれば、「よかった。もしも発熱などコロナを疑う症状が出ても、いつも診てくれているかかりつけの先生に相談すればなんとかしてくれる。保健所に直接電話すると冷たい態度を取られるらしいけど、私にはかかりつけの先生がいるから安心だ」と考えるのではないだろうか。

 しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を診る医療機関が実際に風評被害に遭っているのもまた事実だ。十三市民病院はCOVID-19を専門的に診ることが決まって以来、地域住民からの差別がひどかったと聞く。病室の窓が開いているだけで「コロナをまき散らすな!」というクレームが来たとか。同院の前のバス停で職員が乗ろうとしたときに、乗客から「コロナがうつるから乗るな!」と言われたという報道もあった。

 実際に「風評被害=差別」に遭われた医療従事者の人たちはつらい思いをされただろう。けれども、だからといって我々はそんな差別に屈してはならない、と僕は考える。我々が差別を恐れるようになってしまえば、実際に感染した患者たちを守ることなどできるはずがない。

 当院では2月の時点で、発熱患者を歓迎する体制を取った。当時は「発熱が4日以上続けば帰国者センターに連絡を」というのが行政の方針だったが、「センターに電話してもつながりにくいし、たいていは検査を拒否されるから、発熱1日目でも心配なら当院に電話してください」と患者には伝えていた。患者からだけでなく当院からセンターにPCRを依頼してもほとんど断られていたわけだから行政を頼りにすることはできなかった。ならば、日ごろ診ている患者が困ったときには我々が守るしかない。

 だから早い段階で発熱外来を設け、午前診および午後診の最後に受診してもらうようにした。当院で1人目のSARS-CoV-2陽性が分かったのは4月初旬。保健所に複数回交渉しても検査を拒否されたケースだった。その後10人以上の陽性者が見つかり(臨床的に恐らく陽性だが保健所から検査を拒否された例を含めると数十人になる)、当院をかかりつけにしている患者たちからは、いつのまにか「コロナも積極的に診るクリニック」と思われるようになった。

 「新型コロナ、ここで(当院で)見つかってますか?」という質問を頻繁に受け、「よく見つかりますよ。軽症も多くて珍しくないですよ」と回答するが、「症状が出ればすぐに連絡しますね」と言われることはあっても、「こんなクリニックには来ません」と言われたことは一度もない。つまり、少なくとも自分もSARS-CoV-2に感染する可能性があると考えている患者たちにとっての当院は「あてにできる医療機関」なわけだ。

 恐らく十三市民病院の窓が開いていることに憤慨するような人たちは当院には来ないだろう。そういう人たちに対して当院ができることは何もない。というより関わらない方がいい。もしも当院の窓が開いていることで苦情を言ってくるような者がいても無視するだけだ。あまりにもしつこく言ってくる輩が現れれば「出るとこ出ましょか」と戦うことになるかもしれない。

 だが、そういう人たちも自分自身や自身の身内が発熱を来したときには見方が変わるに違いない。だから、つまらない挑発に乗るのではなく、「風評被害の加害者たち」に対しては、まず無視し、間接的に「病気のことで差別するのはおかしい」ことを訴えていくのが医療者の使命だと思う。

著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

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