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コロナ唾液PCR「来院不要でこっそり受けられます」でいいのか?

2020/09/15
谷口 恭(太融寺町谷口医院)

 先日の深夜、当院をかかりつけにしている患者(50歳代男性)からメールが入った。「2日前から発熱と頭痛があり倦怠感が強くなってきました」とある。「明日早朝に電話します」と返信し翌朝電話で様子を尋ねた(なお、症例はいつものようにプライバシーの観点からアレンジを加えている)。

 声は比較的元気で熱も37℃台だがやはり新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が気になるという。当院を受診するなら「発熱外来」の枠に来てもらう必要があるが、この男性の自宅は当院から1時間近く離れている。当院をかかりつけにしているのは職場が近いからだ。COVID-19の流行以来、こういうケースにしばしば悩まされている。当院はもともと「働く若い世代」が多いクリニックであり、「自宅が近いから」よりも「職場が近いから」という理由で当院をかかりつけにしている患者の方が圧倒的に多い。「困ったことがあればいつでも受診を」と開院以来言い続けているが、COVID-19以降はそういうわけにはいかなくなった。疑いがあれば電車に乗ることができないからだ。

 この男性は車を持っていない。そこで新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のPCR検査を依頼するには少し“軽症”だが、保健所に相談することにした。当院のこれまでの経験から判断して、もう少し重症なら引き受けてくれるのだがこの程度ならたいていは渋られる。すでに当院を受診し採血を実施し、例えば、Dダイマーが2μg/mLを超えているとか、リンパ球が1000/μLを切っている、といった“武器”があれば交渉しやすいのだが、37℃台の発熱と頭痛、倦怠感だけではすんなりと引き受けてくれない。しかし、このケースも交渉してみるしかない。男性の住む市の保健所に電話をした。

僕:「COVID-19のPCRをお願いしたいんですが」
保健所:「分かりました。ではこちらから患者さんに電話しますね」
僕:「えっ、いいんですか。引き受けてくれるんですか?」
保健所:「先生が必要だと判断されているのですからもちろんさせていただきます」
僕:「患者さんの状態などの申し送りはいらないんですか?」

 なんとこの市では「医師からの依頼」というだけで無条件に引き受けてくれるという。感動のあまり声が震えたほどだ。これまで患者の住所がある大阪府、兵庫県、奈良県の多くの市町村の保健所に直接電話で交渉してきたが、これほどスムーズにいったことはなく、たいていは「その程度では今はできません」と断られる。兵庫県のある市にいたっては「先生(僕のこと)が直接診断していないんでしょ。電話の診察だけでは聞き入れられません」と言われた。その市から当院まで受診しようと思えば1時間以上かかるというのに、である。この職員は地域住民全員が自宅の近くにかかりつけ医を持っていると思っているのだろうか。

 話を戻そう。件の男性の話はまだ続く。保健所への電話を切った15分後、男性からメールが入った。なんと「すぐにPCRを受けられることになったから行ってきます」とのこと。さらに驚いたのはその翌日。「結果は陰性でした。まだ微熱があるので自宅療養します」との連絡が入ったのだ。つまり、当院が保健所に交渉したその日に検査を受け、翌日にはもう結果が出ていたのである。

 市町村ごとに対応が異なるというのは我々医療者にとっても患者にとっても不条理だ。そして、さらに理不尽なのが診療所での検査だ。例えば大阪市では、診療所が自施設でPCRが実施できるように保健所と契約を交わそうと思ってもいまだにできない。他方、大阪市以外の大阪府のいくつかの市町村では保健所と契約した診療所がPCRを保険診療で実施できるのだ。日本の医療は全国どこに住んでいても平等ではなかったのか。大阪市の住民は診療所でPCRが受けられず、保健所に交渉しても簡単には許可されず、感染者が増えだすと電話がつながらない、といった事態になっている。

著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

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