日経メディカルのロゴ画像

谷口流、アトピー性皮膚炎診療の極意

2020/08/18
谷口 恭(太融寺町谷口医院)

 僕が医学部に入学したのは27歳のとき。若い同級生とは異なり、医学部生の頃の友人知人の大半が既に社会人だった。社会人の彼(女)らは、自身や家族、友人らに難治性の疾患が見つかったとき、他に医者の知り合いがいないという理由で僕に相談をしてきた。僕は医学部入学時には医師になるつもりはなく研究の道に進むことを予定していたのだが、そんなことはおかまいなしだ。「親友の子どもが自閉症で……」「婚約相手からB型肝炎のキャリアと言われた……」「母親が末期の乳癌……」など、単なる医学生に聞いても解決するはずがないじゃないか!ということを平気で聞いてくる。藁にもすがる思い、とはこういうことを指すのだろう。

 そんな中、あるときから「FK506」という言葉を盛んに聞くようになった。後にタクロリムスと呼ばれ、プロトピックという商品名で登場した免疫抑制薬FK506は当時アトピー性皮膚炎(以下、アトピー)の救世主となる「夢の薬」と期待されていた。アルバイト先で知り合ったアトピーで悩む20歳代女性は何度言っても僕を医者に見立てて話をしてくる。その女性からもFK506について尋ねられ、そして幾つかのアトピーの患者が集う掲示板を紹介された。

 1990年代後半、インターネットがさほど普及していなかったこの頃から、病気で悩む人たちの掲示板はそれなりに賑わっていた。中でもアトピーについては、ステロイドの副作用が過剰に叫ばれ、それを狙ったアトピービジネスも横行しており、掲示板には様々な声が飛び交っていた。

 アトピーは、僕が自分の進路を研究から臨床へと変更するきっかけとなった疾患の1つだ。「治らない」「副作用に苦しめられている」「医者は話を聞いてくれない」「民間療法に100万円使った」といった話を聞いているうちに、次第に自分に何かできることはないのか、と考え始めるようになった。特に「アトピーのせいで外出できない」「大学を休学している」「就職活動ができない」「恋愛を諦めている」といった悩みを抱えている人たちが少なくないことを知るたびに、なんとかしなければならない、という気持ちが強くなってきた。

 このような気持ちになると皮膚科医を目指すのが一般的だろう。実際、僕も皮膚科専門医の道を考えたことがないわけではなく、卒業後は大学の皮膚科に「仮入局」させてもらった。僕が卒業した2002年はまだ研修医制度が確立されておらず、しかし従来の「卒後すぐに大学の医局に入局」という道はなく「仮入局」という中途半端な制度だったのだ。2年間の仮入局を終われば正式に入局する研修医が多いわけだが、僕はそういう道を選ばなかった。1年目の研修医の夏休みを利用してタイのエイズ施設にボランティアに赴いたとき、そこで出会った欧米のGP(総合診療医)の影響を受けて、GPを目指すことにしたのだ。

 話を戻そう。研修医の頃からどんな医師になろうともアトピーは診たいと考えていた僕は、とにかく経験する症例を増やしたかった。研修病院で研修を受けているだけでは症例数はたかだか知れている。そこで、2年間の研修期間中、毎週土曜日に皮膚科の診療所に見学に行かせてもらうことにした。当時大阪市立大学皮膚科教授の石井正光先生にお願いして、アトピー性皮膚炎の患者を多く診られている高橋邦明先生を紹介してもらった。高橋先生からは、ステロイドやタクロリムスだけでなく漢方薬についても詳しく学ぶことができた。以前にも述べたように(参考記事:嗚呼、素晴らしき外来)、3年目以降は小塚雄民先生の元に通い様々な皮膚疾患及びアレルギー疾患を学んだ。こういう学び方は現在は規則上問題があるのかもしれないが、研修医のうちに勤務先の病院だけでなく土日を利用するなどして診療所/クリニックの見学に積極的に行くべきだと考えている。

 太融寺町谷口医院(以下、谷口医院)を開院して今年で14年目になる。様々な疾患を診ている中でアトピーの患者も多い。谷口医院を受診するアトピーの患者の特徴は2つある。1つは他の疾患を併発しているケースが多いこと。喘息、鼻炎が多いが、過敏性腸症候群や胃炎といった消化器症状、生活習慣病、不眠や抑うつ感・月経前症候群といった精神症状、またHIV感染との合併も少なくない(喘息とアトピーは同時に診るべきという意見は過去のコラム「臨床が好きになった日と開業が近づいた日」でも述べた)。

 もう1つの特徴は、当院で初めてアトピーの治療を受けるという患者はほとんどおらず、ほぼ全例が他院の受診歴がある点だ。先述したように併存症と一緒に治療を受けたいからという理由で当院を希望する場合もあるが、特筆すべきはドクターショッピングをしているケースが少なくないことだ。アトピーで有名な皮膚科専門医から谷口医院に替わりたいという患者もいる。もちろん、これは僕が皮膚科専門医より優れた治療をしているからではない。

 当院に替わりたいと考えるのは単純に当院では診察の時間を長くとっているからだ。皮膚科専門医のある先生に聞いたところ、1日に150人くらいは診ていると言っておられたが、それだけの人数を診ようと思えばいくら名医でも患者満足度が下がることもあるだろう。一方、当院ではアトピーの初診なら少なくとも20分以上はかけている(だからアトピーの初診が続くと待ち時間が大変なことになる)。また、当院では「皮膚科特定疾患指導管理加算」が算定できないこと、後発品を中心の院内処方にしていることなどから(ある患者によると)「谷口医院はかなり安い」そうである。

著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

この記事を読んでいる人におすすめ