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「陰性証明は生命線」のナラティブとビジネス

2020/08/12
谷口 恭(太融寺町谷口医院)

 7月中旬以降、当院の電話が鳴り止まない。僕が出勤する6時45分頃にはすでに始まり、その後5~10分おきくらいに呼び出し音が鳴り響く。電話は8時からと案内しているためそれまでは取らないが、8時になると全ての事務仕事を止めねばならない。電話を切れば数秒以内に次のコールが鳴るのだ。他のスタッフが出勤する10時半頃まで、延々と電話を取り続けている。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のせいだ。一つひとつの内容が深刻であり、悲鳴、嗚咽、暴言なども珍しくない。問い合わせで最も多いのは「(発熱など)症状があるのにどこも診てくれないし、保健所では検査の対象外だと言われる」(関連記事:「発熱患者お断り」をいつまで続けるつもりか?)だが、最近急激に増えているのが「無症状だがPCRをしてほしい」だ。

 無症状者に対するPCR検査は感度が低すぎるため理論的にはすべきでないと考えている。そのため当院では6月初旬までは頼まれても断り続けていた。ところが、そんな理屈ばかり言っていられないと思い知ることになったのが「もう二度と夫に会えないかもしれない……」と訴えた70歳代の女性である(関連記事:「渡航先の入国審査でPCR陰性証明が必要なんです!」にどう対応すべきか)。彼女はリタイヤ後、夫とインドネシアのある地域でロングステイをしており、夫を置いて2月に一時帰国しその後COVID-19のせいで再入国ができなくなった。PCR陰性を示さなければ入国が認められないと言うのだ。

 その後、ビジネスや留学での海外渡航の条件にPCR陰性を必要とする国が増え出し、元々当院をかかりつけ医にしている患者やその患者の同僚からの問い合わせが急増したこともあり、無症状者へのPCRを開始することにした。

著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

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