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「新しい“診療”様式」では収入減は必至だけど…

2020/08/05
谷口 恭(太融寺町谷口医院)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受けて医療機関の在り方が問われている。診療所、病院共に収益が大きく減少し廃業を考えている医療機関もあると聞く。日経新聞は7月28日、「患者減少『コロナ前に戻らない』病院選別、質重視へ」というタイトルの特集記事を掲載した。日経メディカル Onlineでも、病院や診療所の経営悪化が報道されている(病院の経営状況、5月はより深刻にいまだに46.5%で患者減、60%が減少の診療科も)。

 日経新聞の記事によると、病院や診療所での感染を恐れた患者が受診を抑え、緊急事態宣言が解除された6月以後も患者数の回復が鈍い。全国に約10万カ所ある診療所は再編・淘汰が始まる可能性が高く、より患者ニーズに合った医療サービスを提供する改革を急ぐ必要がある、と同記事は説く。コロナ患者を診る病院への手厚い支援は必要だが、診療所などの損失を診療報酬や税金で一律に穴埋めするような救済策は「過剰な医療」を復活させるだけになりかねない、というのが同紙の意見だ。

 僕は診療所を運営する立場であるが、日経新聞のこの考えに賛成だ。医師の掲示板などを見ていると「医療機関の経営難を行政が助けるべき」という意見が多いようだが、日ごろ自営業者の患者も多く診ている僕の立場からいえば、金額が少ないとはいえ「慰労金」が医療者には支給されるわけだし(この額は自粛に応じた飲食店に支払われる額よりずっと多い)、そもそもコロナが流行する前から医療機関は何かと優遇されすぎていたというのが私見だ。

 もっとも、医療機関は営利団体ではなく公共のものなのだから(僕はそう思っている)、いつ倒産してもおかしくない台所事情ではまずい。時には行政の補助金や一時的な救済策は必要だとは思う。しかし、過去にも述べたように(関連記事:医師不足解消に本気なら、収入減の覚悟を)、そもそも医師(特に開業医)の年収は高すぎないか。医師の求人情報を見ても最低が年収1ooo万円あたりになっているではないか。これで、「COVID-19のせいで収支が減ったから補助金を」というのは虫が良すぎる話であり世間には通用しない。

 以前から当院をかかりつけ医にしているある飲食店の経営者は「顧客は戻りましたが、離れて座ってもらわねばならなくなったので満席でも売り上げはコロナ前の半分です」と話していた。テイクアウトを始めて挽回を試みている経営者もいるが、飲食産業全体が元の経営状態に戻ることはないだろう。

 他の業界もそうだ。ユナイテッド航空は全従業員の約4割に当たる3万6000人を10月以降に削減する可能性があると社内に通知したことが報道された。旅行業界で働く当院の患者たちは軒並み「元に戻るのは絶望的だ」と話す。フリーランスでツアーコンダクターをしているある患者は、既に復帰を諦めて新たな仕事を探していると言う。

 AmazonやUber Eatsのように、一部にはコロナ禍で業績を伸ばしている会社もあるが、産業界全体で見れば痛手を被っている業種の方が圧倒的に多く、リストラや倒産の危機にさらされている人が少なくない。そんな中、「医療は国民に必要なものだから僕たちの給料は下げないで」と主張するだけでは筋が通らない。

著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

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