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「発熱患者お断り」をいつまで続けるつもりか?

2020/07/29
谷口 恭(太融寺町谷口医院)

 太融寺町谷口医院(以下、谷口医院)にかかってくる電話に再び「怒りコール」が増えてきている。「どこからも受診拒否されたんです!」という怒りである。この手の電話が増えだしたのは3月中旬。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者が増えだし、自身も検査を受けなければと考え保健所(発熱センター)に電話し「検査適応外だから近医を受診するように」と言われ、近くの医療機関に問い合わせると「発熱患者は診ません」と冷たくあしらわれ、行き場を失くした人たちだった。

 4月には、「保健所からも近くのクリニック10軒以上からも断られた」と訴えるケースもざらにあり、中にはそれがCOVID-19陽性であった事例もあった(関連記事:保健所、診療所のたらい回し後に新型コロナの陽性が判明)。5月に入り、そういった症例が減り、しばし穏やかな外来に戻りつつあったが、6月後半から再び増えだしている。

 谷口医院では朝8時から10時半頃までは僕が全ての電話をとっている。最近は、毎朝数件はこの手の問い合わせ、つまり診てもらえるところがなく彷徨っている人たちからの怒りコールだ。この連載でも何度か述べたように、もともと僕が開業を急いだのは、どこからも診てもらえず行き場をなくした人たちの力になりたい、というもので、そういう意味では谷口医院は元々COVID-19と”親和性”があるのかもしれない。

 だが、ことCOVID-19疑いに関しては「では当院にいらしてください」とは気軽には言えない事情がある。なぜなら、受診してもらうには「発熱外来」の枠に来てもらわねばならず、この枠は午前診、午後診の終了後、他の患者さんに帰ってもらってからの特別枠となるために1日2人が上限だからだ。一方、谷口医院が昔から”得意”としている「ドクターショッピングを繰り返している患者」「どこの科に行っていいか分からないという患者」「セクシャルマイノリティーのため他院でイヤな思いをした患者」「HIV陽性の理由で診察拒否された患者」などは、待ち時間を覚悟してもらえさえすればいくらでも受診してもらうことができる。

 発熱外来の場合、当然のことながら優先順位が高いのは谷口医院をかかりつけ医としている患者だ。最近は、たいてい日に1~2人のかかりつけ患者から発熱や咳の問い合わせがあるために、当院未受診の患者から「発熱外来を受診したい」と言われても、なかなか期待に応えることができない。当院をかかりつけ医にしている患者のためにその貴重な枠を置いておきたいというのが本音だからだ。だが、電話口の向こうで必死に病状を訴える患者をむげにもできない。

 実際に僕がどうしているかを紹介しておこう。まずその患者の住所を聞く。この時点で9割はある意味“ほっと”できる。なぜなら彼(女)らの住まいは谷口医院が位置する大阪市北区から離れているからだ。この場合、医療機関受診は近くでなければならない、とまずは正論を述べ、住まいの保健所か医師会に相談するよう伝える。しかし当然のことながら大半は一筋縄にはいかない。保健所には既に相談済であることがほとんどであり、医師会というと抵抗を示す者も多い。これは医師会を当てにしていないという意味ではなく、これまでに数軒のクリニックから断られているのに今さら医師会に相談しても解決するはずがないではないか、という気持ちからの抵抗だ。その気持ちは分かるのだが、「こういうときに住民の力になれない医師会なら存在意義がないではないか」と自分の心に”言い訳”をして「ともかく医師会にまずは相談してください」と言い、電話を切るようにしている。
 
 また、患者の住所が谷口医院から遠い場合、「症状がある場合は電車やバスには乗れず、かといってタクシーを利用するのもはばかられますから、自家用車がない場合は受診できないですよね」と言って断ることもある。正直言えば、こういったことを患者に言うのは心苦しい。議論で勝って内容で負けたような気がするのだ。本当は自家用車を持っておらず他に頼る人がいないような人たちにこそ手を差し伸べたいのだが、僕自身が拒否しているのが事実なわけだから。

 住所が大阪市北区で、さらにかかりつけ医を持っていないと言われた場合は、谷口医院にも診察の義務が出てくることになる。しかし、たいていは、電話がかかってきた時点で当院をかかりつけ医にしている患者で「発熱外来」の予約が埋まっている。そのため実際にはなかなか引き受けることができない。そこで、この場合も結局は「医師会に相談を……」と言い、逃げるように電話を切っている。しかし、このケースでは再び電話がかかってくることもしばしばある。「明日ならダメでしょうか……」と訴えられることもあり、その場合は発熱枠が空いていれば予約を取るようにしている。

著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

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