日経メディカルのロゴ画像

遠隔診療、電話で診るか、オンラインで診るか

2020/07/07
谷口 恭(太融寺町谷口医院)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の影響を受けて政府はオンライン診療を推奨している。医療機関を受診すること自体が患者にとってはリスクになるわけだし、医療機関としては待合室を混雑させたくないのだから、基本的に僕は賛成だ。

 だが、オンライン診療として「画面」は必要だろうか。僕の意見は「画面越しに大切な情報は伝わらない。電話の方がはるかに有用」である。

 Zoomを代表とするオンライン会議が流行り、意外に使えると思っている人も多いのではないだろうか。僕もその一人で、例えば学会や講演はウェブ開催であっても十分に有用だと思う。スライドを提示してもらえるわけだし、場合によっては録画もできるわけだから、今後ますますオンライン学会やオンライン講義が増えると思う。

 ただし、小規模カンファレンスのようなコミュニケーションが中心となる場では話は変わってくる。画面越しでは伝わらない情報・伝えられない情報が少なくないからだ。まして、患者とビデオで対話するとなると、患者が発する大切な「メッセージ」を見逃すことになりかねない。

 そもそも対話で伝わるメッセージはnon-verbalの占める割合の方が大きいのではなかったか。

 僕は現在も大学の非常勤講師という立場で医学部教育に関わっている。最近はファシリテーターというかたちで医学部生の医療面接を指導することがある。そのときに僕がいつも強調しているのは、「何を話せばいいかだけでは不十分。抑揚の付け方、間の置き方、声のトーン、視線の合わせ方などにも注意を払い、患者の気持ちをこちらが理解していることを患者に理解してもらわねばならない」ということだ。

 医療面接には試験があるから、「患者に何を聞けばいいのか」をまずできるようにならねばと考える気持ちは分かるが、実臨床ではそうではない。細かいことを問診していくよりも、信頼関係を構築することに努める方がはるかに重要であり、良好な関係ができれば、どんどん必要な情報を話してくれるのだ(時に、診療に関係ないことを延々と話す患者もいるが……)。

 それぞれの患者への診察は、診察室のドアを開けて患者の名前を呼ぶときから始まる。ドアをガラッと開けた瞬間に、こちらを向いて立ち上がろうとする者もいれば、スマホのゲームに夢中になっている者もいる。中には、名前を呼んでもスマホの画面から目を離さない者もいる。

 名前を呼んだとき、無言で立ち上がるのか、こちらの目を見て大きな声でハイと返事をするのか、といったことも観察するべきだし、診察室までゆっくりと歩くのか、小走りで来るのか、そのとき目線はどこにあるのか、といった情報も大切だ。

 診察室では、視線がどこにあるか、表情はどうか、不機嫌になっていないか、話し方は、声のトーンは、間の取り方は…、そういったことに注意しなければならない。前回は不愛想だったのに今日はニコニコしていることもあれば、その逆もある。こういった情報は患者が発する言葉そのものよりも時に大切な情報となる。

 しかし、現在のオンライン対話ではそのあたりが伝わってこない。ほんのコンマ何秒の遅れやちょっとした画像の歪みが患者の本意を分かりにくくする。しかし、よく考えてみるとそもそも画面は本当に必要なのだろうか。太融寺町谷口医院(以下、谷口医院)は皮膚疾患の患者も多いために、受診できないときは(COVID-19流行以前から)写真を送ってもらっている。

 コミュニケーションの取りやすさで言えばオンラインよりも電話に軍配が上がる、と僕は思う。電話であれば相手の表情は分からなくても、間の取り方や声のトーン、話すスピードなどから相手が考えていることがそれなりに分かるからだ。特に、何年も前から当院をかかりつけ医にしている慢性疾患の患者なら、受診してもらうよりも電話で済ませた方がお互いにメリットが大きい。

 だから、谷口医院では患者に対し「電話再診がいつまで認められるかは分からないけれど、ダメとなるまで電話でいきましょう」と伝えている。先述したように、皮膚疾患の場合はメールで写真を送ってもらっている。採血が必要な場合は受診してもらわねばならないが、生活習慣病なら健診結果をメールで送ってもらえば済む話だ。ちなみに、COVID-19流行前から谷口医院では職場の健診や市民健診の検査結果で代用して、当院での採血はできるだけ減らすように努めている。

著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

この記事を読んでいる人におすすめ