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「渡航先の入国審査でPCR陰性証明が必要なんです!」にどう対応すべきか

2020/06/02
谷口 恭(太融寺町谷口医院)

 電話口で大声を出すような大人げない行為はやめなければ……、少し前まではそう考えながら怒りで震える手を鎮めるのに苦労していた。保健所の対応である。臨床的に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を疑うためPCR検査を実施してほしいとお願いしてもことごとく断られていたのだ。4月上旬、保健所から拒否され、やむを得ずある病院に「不明熱」という名目で紹介した事例が「陽性」だった件については過去のコラム(関連記事:保健所、診療所のたらい回し後に新型コロナの陽性が判明)で紹介した。

 ところが最近はまるであの頃が嘘のようにハードルが大きく下がった。臨床症状に加え、リンパ球低下、CRP高値、Dダイマー上昇などを“武器”に交渉するとうまくいくことが増えてきたのだ。過去のコラム(関連記事:大阪発、軽症の“新型コロナ疑い例”への対応法)で紹介した僕が勝手に決めた“診断基準”には含めていなかったDダイマーを最近は重視していて、保健所に交渉するときも「Dダイマーが上昇しています」を決めゼリフにしている。

 ただ、どこの保健所も快諾してくれるというわけではない。つい先日経験した30歳代女性は、高熱と倦怠感があり、喀痰のグラム染色で炎症所見に乏しく(つまり細菌感染は疑いにくく)、検査データではCRP約15mg/dL、Dダイマーは2ng/mLを超えていた。この症例が断られるはずがないと自信を持って、患者の住所がある大阪市内のある保健所に相談すると「レントゲンで所見がないと適応外」と言われ、しつこく食い下がると「検査するにしてもあと4日待ってもらう」などと言われた。地域(や担当者)によっても敷居は変わるようだ……。

 PCRの適応をどこまで広げるかについてはいろんな考えがある。僕が2月下旬から一貫して言っているのは「診察医が必要と判断すれば認めてほしい」というものだ。さらに、無症状であったとしても感染者と接した可能性が高い者にはタイミングをみて検査すべきだと考えている。保健所で断られたことを「言い訳」にして自己隔離してくれない人は少なくない。また、外国人からは「なんで日本ではできないんだ」と繰り返し言われた。何もかも外国に倣う必要はないが、他国では簡単にできる検査が日本でできない理由は外国人にだけでなく僕自身も理解し難い。

 さて、今回述べたいのは日本でPCR検査ができないために帰国・入国ができず、人生が狂わされてしまうかもしれない人たちの話。事例を紹介しよう(ただし、いつものようにプライバシー保護の観点から内容にはアレンジしてある)。

著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

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