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新型コロナ、これからはかかりつけ医の出番

2020/03/01
谷口 恭(太融寺町谷口医院)

 2020年2月25日、首相官邸が「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を公表した。この方針の最大の特徴は、2月17日に発表された厚生労働省の方針とは異なり、今後、地域で患者数が大幅に増えた状況では、「風邪症状が軽度である場合は、自宅での安静・療養を原則とし、状態が変化した場合に、相談センター又はかかりつけ医に相談した上で、受診する」としていることだ。

 特に後半の「又はかかりつけ医に相談」が大きい。前回も述べたように、厚労省の方針では「症状がある方は帰国者・接触者相談センター(以下、センター)にご相談ください」とされている(2月29日の時点でこの表現は変わっていない大阪府のサイトも同様)。かぜ症状が4日続けば全員がセンターに電話というのは極めて非現実的な対策であり、かえって現場は混乱することが予想されたわけだが、実際にその通りとなった。

 例えば当院をかかりつけ医にしている20歳代の女性。メディア関係の仕事をしていることもあり、この厚労省の方針をあらかじめ知っていた。当院受診前に電話をし、受付スタッフに「咳と微熱が5日続いてますから、先に帰国者センターに電話しないといけないですよね~」と申し出があり、当院スタッフも「はい」と答えた。

 その後受診され診察となったわけだが、女性によると「私も面倒くさそうに電話で状況を伝えたんですけど、むこう(センターの職員)もかなり面倒くさそうでしたよ」とのこと。それはそうだろう。センターに電話相談してくる者の中にはCOVID-19が疑われる症例もあるだろうが、毎日かかってくる電話の大半は「検査不要」と判断される軽症例だろう。なにしろ4日のかぜ症状だけで電話が求められているのだから。

 この女性、花粉症とダニアレルギーがあり、それらが悪化するとアレルギー関与の咳をしばしば起こしている。今回は微熱も重なっていたわけだが花粉症で微熱が出ることなど何も珍しくはない。診察は問診だけで終えて、細菌感染は考えられないためグラム染色も行わず、インフルエンザは症状から疑えず迅速検査は不要と説明した。しかし、女性はそのような説明を求めていたわけではなく、単に毎回、咳症状が続く際に使っている吸入ステロイド(ICS)がなくなったから再処方してほしい、というのが受診動機だった。ただ、念のため、COVID-19は軽症例(や不顕性感染)も多いから増悪するようなことがあれば連絡するよう補足はしておいた。

 2月25日の首相官邸の発表のおかげで、これからはこういった症例に対し、診察前にセンターに「かたちだけの相談」をしなくてよくなるからこれはありがたい。これからは我々かかりつけ医(GP)が活躍する番だ。そして今、最も力を入れねばならないのは、首相官邸の発表の「風邪症状が軽度である場合は、自宅での安静・療養を原則とする」を周知させることだと思っている。

 といっても、当院をかかりつけ医にしている”優秀な”患者は、既に普段から軽度の感冒症状では受診せずに自身で治すということをしてくれている。感冒初期に麻黄湯や葛根湯で治している患者も多い。抗菌薬はほとんどのかぜで不要ということを理解してくれている患者も少なくないし、中には「インフルエンザの検査はいりませんよね。かかっても数日寝たら治るわけだし」と”超優等生”のコメントをしてくれる患者もいる。

 一方、ごく些細な症状でやってくる者も少なくはない。前回紹介した「新型コロナ恐怖症」とも呼べるような不安感から受診する患者もいれば、どんなかぜでも医療機関を受診すれば早く治ると信じている患者も一定数はいる。GPの腕の見せどころは、不安が強い者にも、軽症のかぜで受診する者にも、このような場合は受診不要と理解してもらうことだ。いつの間にか、「検査や薬は最小限」は診察室での僕の口癖となったが、これは14年前の開院以来あまりにも多くの患者に言わなければならなかったからだ。

 しかし、何度説明しても些細な感冒症状で受診する者も今もある程度いるし、初診の患者ではこういう例が少なくない。また、冒頭で紹介した患者のように、かぜを引くたびに咳(感冒後咳嗽)を生じる患者もいて、これには治療を要することが多い。かぜを引けば高確率で細菌性扁桃炎を合併してその都度抗菌薬が必要になる患者もいる。悪化する前に受診した方がよかったというケースもあるわけだから、「検査や薬は最小限」と同時に「それでも困ったことがあればいつでも気軽に相談を」というセリフを付け加えている。

 COVID-19の特徴を考慮し、首相官邸の方針を鑑みれば、「気軽に相談を」というときには、これからは「相談は(受診してではなく)電話かメールで」と伝えねばならない。忙しい診察の中で医師が電話に出ることは困難なので、当院では可能な限り看護師に対応してもらっている。しかし朝8時から10時はスタッフが出勤していないので僕が全ての電話に出ている。かぜ症状がある患者に対しては、自宅で様子をみられそうなら「受診しない方がいい」と現在は伝えるようにしている。

 このあたりは言葉の選択と話し方に注意が必要で、うまく話さないと「診療拒否」と誤解されかねない。COVID-19ではないが、検査や薬が不要であることの説明がうまくいかずクレームが来たことが実は何度もある(関連記事: GPの”相棒”グラム染色を活用しよう!)。

著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

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