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「14日以内の中国訪問者は診ません」でいいのか

2020/02/03
谷口 恭(太融寺町谷口医院)

 新型コロナウイルスの動向が連日報じられる中、大阪府内の感染症中核病院の看護師から当院に電話がかかってきた。「大阪在住の20歳代中国人女性が中国(のある沿岸部の都市)に一時帰国し、日本に戻った直後に高熱が出た。診てもらえるか?」という内容だ。

 しかしこの中国人女性の自宅、当院からは相当な距離がある。そして、この中核病院からもかなり遠い。どうやらこの女性、近隣のクリニックや病院に問い合わせをしたものの、その全てから断られたために、外国人も積極的に診てくれるその中核病院に問い合わせたようだ。けれども、この症例は中核病院で診るべきケースではない。武漢から千キロ近く離れた沿岸部の町に数日間滞在しただけで、しかも咳がないのだ。日本語はほぼ完璧だという。

 そのため、中核病院の看護師が当院に連絡してきたわけだが、その看護師が当院よりも患者の自宅に近い幾つかの診療所やクリニックに電話をかけて、この患者の受け入れ要請をしたが全てから断られたそうだ。

 現在(少なくともこの原稿を書いている2月1日時点)の厚労省および医師会の見解としては、「”流行地域”から14日以内に帰国・入国した人、あるいはこれらの人と接触した人で咳や発熱などの疑わしい症状がある場合」のみ保健所および感染症中核病院が対応することになっている。

 この”流行地域”をどのように解釈するかは議論があるかもしれない。日本医師会が1月29日に発表した「新型コロナウイルス感染症に関する資料について」は、「流行地域(中国湖北省武漢市など)」という表現を取っている。

 一方、厚生労働省が1月23日に発表した通知「新型コロナウイルスに関連した感染症の発生に係る検疫対応について」では、流行地については「中国(武漢市)」、英語版は「If you come from Wuhan City, China」とされている。

 先に述べたように、この患者は武漢市から遠く離れた沿岸部の町に一時帰国しただけで滞在したのは数日のみである。たしかに、日がたつにつれて新型コロナウイルスの感染者の報告は武漢市内よりも市外の湖北省の方が多くなり、さらに湖北省以外にも広がっていると報告されている。ということは湖北省以外の土地に赴き、その後、発熱が起これば新型コロナウイルスも否定できないということに理論上はなるであろう。

 だが、感染症中核病院の視点から見れば「そんなわずかな可能性の例までうちで診られない」となるのではないだろうか。もちろん、武漢から離れている土地からの帰国であっても中核病院にお願いすべき症例もあるかもしれない。だが、「(流行地以外の)中国滞在+発熱」という理由だけで一般の医療機関が診察を断るのは許されないのではないだろうか。

 そうは言っても、院内で感染が広がれば大きな問題となる。他の医療機関が断った合理的な理由がある可能性も考え、できるだけ他の患者と接触させないようにするために午前診の最終の時間に来てもらった。咳をしていれば直ちに別室に移動してもらう予定とした。


著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

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