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患者からのクレームが絶えない診療所

2019/11/22
谷口 恭(太融寺町谷口医院)

 前回は、患者数が少なく牧歌的とも言える開業当初の頃の思い出を述べた(関連記事:「開業直後の診療所を受診するな」に思うこと)。この頃は運営上の「赤字」を補填するため、夜間や土日に救急外来でアルバイトをせざるを得なかったが、クリニックでの診療は1人の患者に十分な時間を取ることができ、スタッフと話せる時間も長く、医師の僕だけでなく、看護師、受付スタッフみんなの満足度が高かった。

 ところが開業して3カ月が過ぎた頃から、待ち時間のクレームが寄せられるようになり、半年を超える頃には毎日のようになった。クレームの内容が待ち時間に対するものだけなら「仕方ない」と思えるが、「態度が悪い」という言葉が入ってくると傷つく者も出てくる。前回も述べたように、開業当初は「意見箱」を置いており、最初の頃は感謝か激励の言葉がほとんどだったのが、そのうちに「待ち時間が長い」、そして「スタッフの態度が悪い」という内容が増え始めた。

 数少ないスタッフで大勢の患者に対応しなければならなくなれば、患者1人当たりにかけられる時間が少なくなるのはやむを得ない。午後は予約制でなく受付順にしているので(午後を予約制にして失敗した理由は前回述べた)、日によっては新患だけで30人近くになることもあり、こうなると患者登録だけでもかなり大変だ。中には保険証の期限が切れていることや「(保険証の)コピーしかない」と言われることもある。コピーでは受け付けられない旨を伝えると突然怒り出す患者も少なくない(なお、保険から外されているのを知っていてコピーで受診しようとする悪質な例も実際にあった)。

 忙しいときに限って電話がひっきりなしにかかってくる。狭義の医療者でない受付スタッフが症状を聞いても重症度の判断はできず、看護師か医師(僕)に代わらねばならないこともあり、これでまた待ち時間が長くなる。過去のコラムで紹介したように、当院では「メール相談」を行っているが(関連記事:やってよかった「メール相談」)、その理由の1つが電話での相談を減らしたいからでもあった。

 そのうちにクレームの矛先が医師である僕に向かってきた。一言で「クレーム」といっても幾つかのパターンがあるので、それぞれについて述べることにする。

#1 診察室で文句を言うケース:最近になり数カ月に一度程度の頻度に減ったが、数年前までは月に数回はあった。彼(女)らが言うのは「これだけ待ったんだから希望する薬を出せ」「患者が希望する検査をするのがクリニックの仕事と違うんか」「お金払うのあたしですよね」などなど。もちろん、なぜ希望する処方や点滴、検査が(少なくとも保険診療では)できないかについては丁寧に真心を込めて説明している(つもりだ)。

 しかし、いくらこちらが冷静に話しかけても怒りモードが閾値を超えてしまっている患者にはどうしようもない。ヒステリックに騒ぎ出す女性や、ドスをきかせた声で凄んでくる男性もいる。そこまでの態度を示されれば、こちらとしても「匙を投げる」決心が付くので、「あなたとは良好な患者医師関係が築けません。二度と来ないでください」と言って、お引き取りいただいている。なお、このような患者はなぜか土曜の午後にやってくる、という当院のジンクスがある。

#2 後からメールでクレームを言ってくるケース:実名でクレームを述べる患者もいれば、匿名で送ってくる者もいる。このケースは診察室で暴言を吐く患者に比べると、言葉は丁寧でたいていは「ですます調」になっている。言っている内容の筋が通っている場合は回答するが、たいていは”閾値”を超えているので「残念ながら貴殿のご要望にはお応えできません」という内容になる。

 後から長々とメールを書くくらいならそのときに言えばいいのに、と思わずにはいられない。余談ではあるが、後からメールでクレームを言うのは日本人の特徴らしい。以前、宿泊したバンコクのホテルでホテルスタッフのタイ人とこのテーマで話をしたことがある。彼女によると、欧米人(特に米国人)は老若男女問わず、気になることがあればすぐに文句を言う。聞き入れられない要望もあるがホテル側からすれば「分かりやすい」そうだ。一方、日本人はそのときはニコニコして「コップン・カー(クラップ)」などとわざわざタイ語でお礼を言うくせに、後から延々と長文メールで文句を綴ってくるそうなのだ。

 もう1つ余談をしたい。今度は知人のフィリピン人女性から聞いた話。彼女はセブ島の英会話学校の講師をしており、ある日、生徒の1人である日本人女性から食事に誘われたとのこと。日本人女性は帰国直前で「お世話になった先生に食事をご馳走したい」と言ってきたそうだ。尚、現在日比間の物価差はかなり大きく英会話学校の教師の日給は日本円で数百円程度しかない。その食事はとても楽しいひと時で帰り際には「先生と出会えてよかった」と言われたそうだ。ところがだ。翌週に上司から呼び出しを受けて注意を受けたという。なんと、その日本人から「不真面目で教え方が悪い」というクレームが届いているというのだ。このフィリピン人女性はその後「日本人不信」に陥ったと言っていた。

 このエピソードを聞いたときは「おかしな日本人もいるもんだ」と感じたが、改めて考えてみると、実はこのような日本人は少なくないのかも、と思うようになった。当院でも、開業当初から頻繁に受診していたある女性から手痛い仕打ちをくらった(としか思えない)エピソードがある(これについては回を改めて述べたい。この女性のおかげで十数時間を費やさねばならなくなった)。僕の恩師の1人である故・大国剛先生からは、「患者はときに豹変する。昨日の友は今日の敵ということもある」という教えを授かったことがある。

#3 グーグルの「口コミ」に悪口を書くケース:これはここ数年で全国的に増えてきているようだが、僕自身は「こんなの放っておけばよい」と思っている。ところが、「放っておくべきでない」とする考えもあるようだ。先日、日経メディカルにも連載をもたれている「なにわのトラブルバスター」こと尾内康彦氏から直接話を聞く機会があった。尾内氏によれば「グーグルの口コミはもはや無視することはできない。何らかの対策を立てねばならないケースもある」とのことで、幾つかの対応手段があるらしい。氏には「先生(僕のこと)も相当ひどいことを書かれていますよ」と言われてしまった。

 実は尾内氏の話を聞く少し前に当院のスタッフからもこの話を聞いており、それら「悪口」を読んでみたのだが気になるようなものはなかった。先述したように「二度と来ないでください!」と事実上の診療拒否をしている患者が年に数人はいるし、そこまでいかなくても「医療はサービス業でありません!」と強い口調で患者を諭すこともあるわけだから、プライドの高い患者が悪口を書くことは当然予想できるのだ。ネット上のクレームや悪口を気にするほど僕は暇ではない。それに悪口を書いたのが誰なのかは考えても分からないし、分かったところで抗議をするのもばからしいし、時間の無駄だ。

著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

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