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HPVワクチン接種率を確実に上げる方法

2019/08/02
谷口 恭(太融寺町谷口医院)

 HPVワクチンのことで文章を書くと、必ずと言っていいほど各方面からクレームが来たり炎上したりするのだが、今回も気にせずに書くことにする。

 僕はHPVワクチンの推奨派でも慎重派でもない。「ワクチンは理解してから接種する」が原則と考えており、患者から質問されれば何度でも答えるが「利益とリスクをよく考えて最終的にはご自身で判断してください」と言い続けている。

 例えば「宗教的理由で打ちません」と言われればそれは尊重すべきだと思う。米国ではいくつかの州が「宗教的理由で麻疹ワクチン接種を拒むことはできない」という決定をしているが、これは個人に介入しすぎではないかと思う。もちろん、「麻疹ワクチンは自身のためだけでなく、周囲に感染させないこと、つまり社会のためにという一面もあるんですよ」ということは説明しなければならないが、「それでも打ちたくありません」という人にはどうしようもない(まあ、こういう人はめったにいないが)。

 さて、HPVワクチンである。推奨派の先生方からはお叱りを受けることになると思うが、10歳代の娘を持つ女性から相談をされたときに「是非打ってください」と僕が答えたことは一度もない。一通りの説明をした後、「性交渉でしか感染しませんからパートナーができてから打つという選択もありますよ。ただし半年間はプラトニックを保たねばなりませんが」と言うと、「私の娘の日ごろの行動を考えると直ちに打たねばなりません!」と言われることはまずない。性行為は互いに同意したものだけではなく、デートレイプを含めた性被害のリスクがあることについても話すが、それでもすぐに打たせるという保護者はほぼ皆無だ。

 一方、こういう話をした後に「娘ではなく私が打ちます」という展開になることがときどきある。太融寺町谷口医院では2013年に国が積極的な接種勧奨を差し控えてからもHPVワクチン接種者数は変わらない。当院は都心部に位置していることもあり、娘の相談に来る母親は母子家庭であることも多く、これからパートナーを探すことを考えている場合もある。そういう事情もあって、30歳代から40歳代の女性のHPVワクチン接種者はそれなりに多いし、後述する理由から20歳代の独身女性の接種者も少なくない。またこれも後述するように当院では男性の接種者も多い。話を「娘を持つ女性」に戻すと、HPVだけでなくB型肝炎ウイルスの同時接種を希望されることも多い。

 先に僕は「推奨派ではない」と述べたが、これは「患者は医師の言いなりになるのではなく自分で判断すべきだ」という考えに基づいているからだ。むやみやたらに患者の信条や心情に入っていくべきではない、と思っている。

 一方、プライベートでは関係がない。昔からの友人ならある程度ずけずけと物を言うことができる。だから医療者以外の友人からHPVワクチンについて意見を求められたときは、それが男性であっても女性であっても「僕は4価ワクチン(ガーダシル)の発売と同時に打ったし、あんたも打つべきだ」と言っている。つまり冒頭で「推奨派でも慎重派でもない」と述べたのは“医師”としての考えであり、“個人”としては「(その人がシスターなど生涯の純潔を誓っているのでなければ)打たない理由はない」と考えている。そして僕に相談する友人はたいてい接種している。

著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

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