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「HIV内定取消事件」で医療者の取るべき行動とは?

2019/07/19
谷口 恭(太融寺町谷口医院)

 「同業のものに対しては常に誉めるべきであり、たとえ、それができないようなときでも、外交辞令に努めるべきである。決して他の医師を批判してはならない」――。

 フーフェランドが著し、緒方洪庵が訳したとされる『扶氏医戒之略』に登場するこの言葉(現代語訳は馬場茂明著『聴診器』より)は前医の診療を評価すべきという意味だが、狭義の診療だけでなく医師が医師として判断する全てにおいて「他の医師を批判してはならない」と僕は考えている。

 だが、「札幌HIV陽性ソーシャルワーカー内定取り消し事件」に関しては、その病院の医師の対応に首をかしげざるを得ない。この事件が最初に報道された2018年7月、まさか本当に裁判になるとは微塵も思っていなかった。まずは事件の経過を報道から振り返っていこう。

 2017年12月、北海道在住の30歳代男性(Aさん)は北海道社会事業協会の運営する病院に応募し、ソーシャルワーカーとして採用が内定。Aさんは応募する前にその病院に患者として受診したことがあり、HIV陽性であることがカルテに書かれていた。2018年1月、病院はそのカルテからAさんの感染を知り「HIV陽性を告げなかったこと」を理由に内定取り消しを告げた。Aさんは「就労に問題はなく、業務で他者を感染させる心配はない」とする主治医の診断書を病院側に送ったが覆らず。2018年7月、Aさんは病院に慰謝料の支払いなどを求めて札幌地裁に提訴した。2019年6月11日、Aさんに対する本人尋問が札幌地裁で開かれた。

 こんな裁判が本当に行われれば、この病院は世間に恥をさらすだけでなく全国(あるいは全世界)から糾弾されるだろうから、さっさと内定取り消しを撤回してAさんに謝罪して慰謝料を払う以外の選択肢はないはずだ、と僕は考えていた。HIV感染を理由に解雇することは厚生労働省による「職場におけるエイズ問題に関するガイドライン」で禁じられているし、過去に行われた同じような裁判では雇用側が敗訴(注)しているのだから。

 それにHIV陽性の看護師が感染を理由に病院を解雇された「福岡HIV陽性看護師解雇事件」はすでに決着がついている。少し長くなるが重要な事件なので、ここで振り返っておこう。

著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

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