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令和版 負傷した白人女性を救った日本の青年

2019/07/05
谷口 恭(太融寺町谷口医院)

 その男性から電話が入ったのは土曜日の昼下がり。当院の午前診が終了する午後2時の少し前だった。

 「外国人の女性が足が痛くて歩けないようなんです。骨折かもしれません。今から診てもらえないですか」

 電話口の日本人男性は、足を痛めてうずくまっている白人女性をたまたま見かけ、声をかけたそうだ。その女性もそばにいる夫と思われる白人男性も日本語ができず途方に暮れていた。そこで、英語で診察を受けられそうな医療機関を日本人男性がスマートフォンで探し、当院に電話をかけてきたのだ。患者は英国の中年女性で、初めて日本を訪れたそうだ。

 実は、この連載を始めるきっかけとなったのが、「外国人を診る医療機関が少なすぎる」ことに対する僕の“怒り”である(関連記事:僕らが外国人を診る理由)。少なくとも英語を話す患者に対しては診療拒否をしてはいけない、と僕は言い続けているのだが、日本語ができないという理由で門前払いされる事態が残念ながら(大阪では)起きている。ならば、“逆差別”してでも外国人を診ようではないか、と数年前に一念発起した。最近はメール相談も外国人からのものを優先して返信しているし、少々予約が詰まっていても、外国人ならば症状や疾患を問わず診察するようにしている。

 だが、骨折が疑われる患者なら初めから整形外科専門医を受診してもらう方がいい。GPは骨折も診なければならない、という考えもあるが、当院のX線では足の撮影はしにくいしギプス固定の用具もそろえていない。それにもうすぐ休憩時間に入る。GPは24時間診察するのが基本という意見もあるのだが、休憩時間の受診となると他のスタッフにも負担がかかる。

 そこで、大阪府の「救命救急安心システム」(以下「#7119」)を教えることにした。「このケースは整形外科医に診てもらった方がいいです。こういうときは#7119に電話をして救命救急安心システムに相談してください。事情を話せば医療機関を紹介してもらえるはずです。もしもそれでも見つからなければ改めて当院にお電話いただけますか」と言って電話を切った。

 そして再びこの男性から電話がかかってきた。電話を取った受付スタッフによると、「2回目の電話は声の調子がおかしく、明らかに怒っている」と言う。

 「一体日本の医療はどうなっているんですか!英語を話す患者すら診られない日本の医療って何なんですか!こんなことが許されるんですか!」、と(罪のない)当院の若い女性スタッフに攻撃的……。

著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

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