日経メディカルのロゴ画像

誰も教えてくれなかったプライバシー対策

2019/06/07
谷口 恭(太融寺町谷口医院)

 開業します!と世間に公表したわけでもないのにどうやって情報を入手するのか、開業予定の半年くらい前から「開業のお手伝いをします」という連絡が頻繁に届くようになった。コンサルタント会社に頼ることは始めから考えていなかったので、そういった会社から直接連絡が来ても面会に至ることは多くなかったが、医薬品の卸業者や医療器具の販売会社に紹介された時やそういった業者内部の開業支援担当者と称する人たちには何度か会ったことがある。

 結論から言えば話が前に進むことはなく2回目の面会は一度も行われなかった。考え方が合わないというか、互いの論点がずれているのだ。僕が最も取り組みたいと思っていたことは、この連載で繰り返し述べているように、これまで医療機関で不快な思いをした人やどこの医療機関に行っていいか分からない人たちの力になることだが、そういう話をしてもなかなか理解してもらえなかったのだ。

 彼らがよく言うのは「この地区には内科系クリニックが何軒あって、人口はこれくらいで、高齢化率は……」という話で、ひどい場合は「サプリメントを扱いませんか」と言われたことさえある。要するに、医療機関を営利団体と考え、利益をあげるための助言を行おうとしているのだ。彼らが言いたいのは「開業は簡単ではありません。経営的に軌道に乗せるには我々の助言が必要です」ということであり、そしてそれは「医師過剰」を前提としている。

 一方、僕の考えは「医師は不足している」である。どこの医療機関を受診していいか分からないという人たちがどれだけ多いのかをきっと彼らは知らないのだ。これなら「医療難民を救ってください」と僕に言ってくれた都市銀行の融資担当者の方がずっと話が合う(関連記事:開業の融資獲得に準備した2つの“秘密兵器”)。

 きれいごとに聞こえるかもしれないが、医療機関は営利を追求してはいけないと僕は思っている。そもそも、日本医師会の「医の倫理要綱」第6項は「医師は医業にあたって営利を目的としない」なのだ。もちろんスタッフに給料を支給せねばならないし、組織を存続させなければ結局自分を慕ってくれる患者にも迷惑をかけることになるのは事実だ。しかし、医師不足の状況で「特別なことをしなければ運営できない」なんてことは起こらない。

 もしも僕がコンサルタントをするなら、「医療者や医療機関に不満を持っている人は少なくありません。一部には医師は既に過剰だという声がありますし、医師の中にもそのように考えている人がいますが、そうではありません。実際、多くの人たちは真の医療を求めてさまよっているのです。健康番組の視聴率が高く、医師よりもテレビのパーソナリティーの意見を聞く人が多いのは先生もご存じでしょ。医師の意見を無視して、サプリメントや健康食品に高額をつぎ込む人がいるのもご存じですよね。それに最近では代替医療や最先端医療などと称して、いかがわしいことをやっている医師がいるという問題もあります。こんな時代だからこそ、先生のような医師に頑張ってほしいんですよ……」というような営業トークを行うと思う。

 さて、ここからが今回の本題である。僕が開業時に最もこだわったことの1つが「患者のプライバシー確保」だ。残念なことに、この点について助言してくれたコンサルタントは僕が出会った中には1人もいなかった(きちんと契約すれば教えてくれたのかもしれないが)。

著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

この記事を読んでいる人におすすめ