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「医師になる気はない」と明言し医学部合格

2019/02/22
谷口 恭(太融寺町谷口医院)

 昨年(2018年)発覚した東京医科大学をはじめとする幾つかの医学部入試”差別”問題が話題になると、「高齢者を医学部に入学させるべきではない」という意見が必ず出てくる。この問題は今に始まったことではない。昨年は40歳代の元NHKの女性アナウンサーが、医学部入学が決まったことが注目され、このときも医師からは反対意見が相次いだ。

 裁判にまで進んだケースもある。2005年の群馬大学医学部を受験した東京都の50歳代(当時)の主婦が「合格者平均以上を得点しながら年齢を理由に”門前払い”されたのは不当」と入学許可を求めて前橋地方裁判所に提訴したのだ。報道によると、合格者の平均点は551.2点でこの主婦はそれを10.3点上回る561.5点だったのにもかかわらず不合格とされた。

 僕が医学部に入学したのは27歳のとき。まだまだ上がいるわけだが医学部受験の世界では「高齢者」となるらしい。「高齢者」が好ましく思われない理由として最も多いのが「医師を養成するのにはお金がかかる。そしてそのお金は働いて社会に還元せねばならない。高齢で医師になれば働ける期間が短すぎるではないか」というものだ。

 なるほど、確かにこの意見はある意味では筋が通っている、と僕も思う。では、医学部入試の面接で「医師になることは考えていませんが医学部で学びたいんです」という受験生がいればどうなるのだろう。実はこのセリフ、僕自身が実際に大阪市立大学の面接で話した言葉だ。

 ここで簡単に自己紹介をしておこう。1991年に関西学院大学社会学部を卒業し、いったん企業に就職した僕は、皮肉なことに大学を卒業してから学問の面白さに気づき、母校の社会学部の大学院に進学することを考え始めた。入社3年目あたりからは大学院進学を前提として繰り返し母校の先生の元に通い、社会学の教科書や論文を紹介してもらっていた。当時の僕が取り組みたかったのは「人間の行動・感情・思考」といったテーマで、それらを勉強しているうちに少しずつ生命科学にも興味がでてきた。文系の者にでも読めるような生命科学の本を片っ端から手に取り、ブルーバックスの生物系のものはほぼ全てを読破したが、それでも生命科学への探求心が衰えることはなかった。かといって生物学者や医者になりたいのではなく、あくまでも社会学の立場で生命科学を学ぶことを考えていた。そして、さんざん悩んだ挙句に出した結論が「医学部で生命科学を学び、その後再び社会学に関わりたい」というものだった。

 だから僕の医学部受験の動機は「病気の人を助けたくて…」といった崇高なものでは全くなく、生命科学の知識を増やし実際の病気や患者を診て「人間」というものについて深く知りたいという”自分勝手”なものだったのだ。

 面接時には面接官に好感を持ってもらうような対策が必要なのかもしれないが、当時の(生意気な)僕はそんなことは微塵も考えず、憲法が定める「学問の自由」を「学問を求める者に対して平等であるべきだ」と都合よく解釈し、面接では「医学を学びたいんです。社会学の延長から生命科学を独学で勉強してきましたが、もっともっと本格的に勉強したいんです!」と言い続けた。そして「医師になることは考えていません」とはっきりと伝えたのだ。

 しかし結果は合格。こんな受験生でも合格になるくらいだから、東京医大を発端に全国の医学部に差別がないかが調査されるという話を聞いたとき、大阪市立大学に限ってはあり得ないと確信していた。だが結局、入学後の僕は仏語で挫折し(入学後まず取り組んだのが仏語で、フーコーやラカン、ドゥルーズ=ガタリを原書で読むつもりでいたが断念)、実験の授業でセンスのないことを認めざるを得なくなり、4回生の時点で夢を諦め臨床医を目指すことになるのだが、1回生の頃は大きな鞄の中に複数の仏語の教科書と『Molecular Biology of the Cell』の原書を入れていた。

 話を戻そう。「高齢で医師になれば働ける期間が短く……」という意見はある意味では正しいと思う。実際、防衛医科大学には年齢制限がある。多額のお金を使い医師を養成することを目的とした大学なんだからこれは当然だろう。自治医科大学や産業医科大学の年齢制限については聞いたことがないが、大学の特徴を考えると年齢制限をむしろ積極的に検討すべきではないだろうか(ただし、制限なしと言っておきながら実際は制限するようなことはあってはならない)。

著者プロフィール

たにぐち やすし氏●1991年関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て、2002年大阪市立大学医学部卒。研修医終了後、タイのエイズ施設でのボランティアを経て大阪市立大学医学部総合診療センター所属となり、現在も同大非常勤講師。2007年に大阪・梅田に開業。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。労働衛生コンサルタント。

連載の紹介

谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」
患者さんに最も近い立場で医療を行いたい……。それを実現するため医師6年目に資金300万円で開業した谷口氏。「どのような人でも、どのような症状でも受け入れる」をポリシーに過去11年で3万人以上の初診患者を診察した経験を基に、開業医のやりがいや苦労、開業医に求められるミッションを若手医師向けに語ります。

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