日経メディカルのロゴ画像

連載第8回
病院に来ると緊張するんです

2006/05/29

写真1 測定する環境や時間によって、血圧の測定値はかなり違う。

 50歳の女性Iさんは、40歳のときから近医にて高血圧の治療を受けてきたが、都合があって当院での治療を希望した。当院初診時の血圧は180/90mmHgで、それまで服用していたアンジオテンシン変換酵素阻害薬ACE阻害薬)を処方したが、2週間後の血圧が184/100mmHgと高かったため、Ca拮抗薬の併用を開始した。
 
家庭でも血圧測定を
 Iさんの場合、初診時に調べた心電図に左室肥大はなく、胸部X線でも心拡大を認めなかった。しかし、24時間携帯血圧計(自由行動下血圧測定、ABPM)による検査を行ったところ、24時間の平均値は145/88mmHgと高く、通常であればコントロール不良といえる結果だった。念のため、家庭での血圧測定を指導したところ、家庭血圧の結果は、全く問題ないものだった。例えば、ある日の血圧は、午前7時30分123/74mmHg、午前11時119/76mmHg、午後2時30分121/71mmHg、午後6時117/72mmHg、午後7時30分108/68mmHgといった具合である。

 当院での測定結果とあまりにも違うため、家庭の血圧計に問題があるのではないかと思い、自宅で使っている血圧計を持ってきてもらった。両者を比べると、水銀柱では160/90mmHg、持参の自動血圧計では173/94mmHgと、血圧計に問題があるとはいえない結果だった。

 そこで、Iさんに、それとなく病院に来る時の気持ちを尋ねると、「実は、どうしても病院に来ると緊張してしまうのです。24時間の血圧測定のときも、30分や60分おきに腕が締まるのが気になって、落ち着きません」と話された。そのためIさんには、「緊張して血圧を測ると高くなるんですよ。自宅でお使いの血圧計には問題がないですし、自宅での血圧値を目安に、このまま経過をみることにしましょう」と今後の方針を説明した。現在もACE阻害薬とβ遮断薬を併用して経過を観察しているが、相変わらず外来血圧は高いものの、自宅では正常という状態が続いている。
 
外来血圧とABPMは異常でも家庭血圧は正常
 高血圧治療ガイドライン2004には、白衣高血圧は「医療環境(外来等)で測定した血圧は常に高血圧で、非医療環境下で測定した血圧(家庭血圧、ABPM)は常に正常である状態をいう」と記載されている。また、ABPMでの24時間平均血圧値については135/80mmHg以上を高血圧としている。

 従って、Iさんのように外来血圧だけでなくABPMで135/80mmHg以上であったときは、白衣高血圧とはいえず、どのように表現すべきかと判断が難しい。しかし、「外来血圧が高く、ABPMでも高血圧パターンを示すが、家庭血圧は正常」という症例はIさんだけではなく、女性に多いという印象を持っている。それだけ、女性は家庭血圧の測定が重要といえるかもしれない。

 白衣高血圧の頻度は高血圧の20~30%で、加齢とともに増加する。通常、白衣高血圧は、比較的無害なため降圧薬による治療の必要性は少ないと考えられている。ところが最近では、白衣高血圧であっても、心肥大、蛋白尿、無症候性脳梗塞や、頸動脈のIMTに異常があるなどの高血圧性臓器障害が認められる場合、糖尿病を合併している場合などは注意が必要なことが分かってきた。
 
 心肥大や蛋白尿がなく、家庭血圧には問題がないものの24時間平均血圧値が高いというIさんのように、従来の概念とは違った症例は、慎重に予後を見極める必要があるだろう。

中高年女性の降圧薬は?
 さて、降圧薬のACE阻害薬と利尿薬を比較した臨床試験ANBP2では、心血管イベントの発症抑制については、男性ではACE阻害薬は利尿薬より優位であったのに対し、女性では効果に差は無かったことが報告されている(図1)。

著者プロフィール

田中裕幸(ニコークリニック理事長)●たなか ひろゆき氏。1978年長崎大卒。久留米大第三内科、大牟田市立病院(現大牟田総合病院)循環器科医長、春陽会上村病院循環器科医長を経て、94年に開業。

連載の紹介

【臨床講座】中高年女性を診る
同じ生活習慣病の中高年患者といっても、男性と女性では様々な違いがあります。循環器疾患におけるリスク因子(高脂血症、高血圧、糖尿病など)の性差を中心に、中高年女性を診察する際のポイントを解説します。

この記事を読んでいる人におすすめ