
2022年4月20日に鹿児島地方裁判所で、当時20歳代の研修医が発症した脳膿瘍への対処が遅れ寝たきりになったとして、きわめて高額の賠償責任が認められた。3億2714万4245円ということで、驚かれた読者の方も多いのではないだろうか。脳性麻痺の事案など、賠償額が遅延損害金などを含め2億円近くなるケースも多い。
寝たきりになった場合の損害としては後遺障害等級1級の慰謝料や生涯にわたる介護費用などがあるが、被害者が医師であろうと特に資格を持たない無職者であろうと、この額はほぼ同じである。
本件でも入院雑費15万4500円、入院付添費66万9500円、4カ月くらいの入院についての慰謝料160万円、寝たきりになった後遺障害慰謝料2800万円などが認められている。基本的に、損害賠償の計算については交通事故の基準をほぼそのまま当てはめて計算する仕組みになっているので、どんなケースであれ、このあたりは金額が大きく変わらない。
健康な人が被害者となる交通事故と異なり、診療関連の訴訟の原告は傷病があるのが前提だが、もともと疾病を有していることなども、あまり裁判所は斟酌しない。ただし、これは診療行為に過失がなければ、十中八九元気になったという因果関係の立証があった場合の話である。ここが、もっと良くなった可能性もあるけれど、「十中八九」までは言えない「相当程度の可能性」の場合は、この「元気になった相当程度の可能性」への侵害として一定の慰謝料(数百万円が相場である)の賠償責任が生ずるとされている(最高裁平成15年11月11日判決)。