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「sexとgender」に医療はどう向き合うか

2021/10/21
田邉昇(弁護医師、中村・平井・田邉法律事務所)

 診療において、生物学的性別(sex)社会・文化的性差の概念も含めた性別(gender)が異なる患者に対応する経験がある先生方も多いであろう。LGBT(Lesbian、Gay、Bisexual、Transgender)を含む性的少数者は、ある調査によれば全体の10%くらいいるとのことだ。筆者の臨床経験上、見た目で「恐らくそうだろう」と推定できるケースは数件あったが、診察のときに性的指向までは分からないことも多い。弁護士として病院から性的少数者への対応に関する相談を受けた経験も少なく、「10%もいる」ということが正直、よく実感できていないが、カミングアウトの困難さ、所属社会が広がっていないことの表れなのかもしれない。

 ただ、例えば性的少数者である患者を病院の大部屋に入れる際などは、男女別の部屋のどちらに入れるべきかという問題が生じ得る。sexとgenderが異なっていれば、入りたい部屋もすんなり決まらないだろうし、同室の他の患者からクレームが出てくる恐れだってある。

 関連する判例としては東京地裁令和元年12月12日判決がある。本事案は、経済産業省が「身体的には男性、性自認は女性」の職員に対し、執務室から2階以上離れたフロアの女性トイレの使用しか認めなかった件で、判決では国家賠償法に基づき慰謝料120万円の支払いを命じている(その後東京高裁で覆され最高裁に上告中である。文末追記参照)。

 裁判で、被告である国は、職員のsexが男性であることから女性職員との間で生じるトラブルを避けるためにこうした処遇を行ったと主張したが、裁判所は(1)原告である当該職員に性同一性障害の診断が下されていること、(2)女性ホルモンの投与によって原告が女性に性的な危害を加える可能性が客観的にも低い状態だったこと、(3)職場でも原告が行動様式、振る舞い、外見などの点を含め女性として認識される度合いが高かったこと──などの理由から「トラブルが生ずる可能性はせいぜい抽象的なものにとどまる」と判断している。

 医学的に見れば、男女のsexの別は、生物学的に大きな差異であるから診断や治療においても明らかに違いが生じ、これを区別しながら診療を行わなければならない。また、診療はプライバシーに踏み込むことでもあるから、男女のsexの別は、入院はもちろん外来診療でも意識せざるを得ないであろう。そのときに「どこまで区別しながら診療することが医学的に妥当なのか」という部分がデリケートな問題になる。

 性別に関して言えば、東京高裁で有罪判決が出された乳腺外科医の事件(最近、最高裁が口頭弁論を開くと通知した。つまり有罪判決が見直される可能性が高い)も、患者と医師のsexが異なることにそもそも起因しているとも考えられる。

 最近は、こうした性の問題、性的少数者の問題が“良い意味で”オープンになっている。そろそろ医師や医療機関もこのテーマにどう向き合うべきか、真剣に考えるべきだろう。

著者プロフィール

たなべ のぼる氏〇 1984年に名古屋大卒。都立駒込病院に勤務し、名古屋大学大学院で血液内科学を専攻する傍ら、救急医療、臨床腫瘍学などにも従事。旧厚生省などでの勤務を経て2001年に弁護士登録。診療を行う傍ら、医師の視点で弁護士として、非常勤裁判官として、医療訴訟を中心に多くの事件を担当。中村・平井・田邉法律事務所に所属。

連載の紹介

弁護医師・田邉昇の『医と法の視点』
話題の医療・医学に関連したニュースを、臨床医(総合内科専門医・血液専門医)でもあり、旧厚生省の勤務経験を持つ田邉昇氏が、法律家の立場で易しく解説します。

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