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医師を縛ることはできるか ~コロナ徴医令と地域枠~

2021/09/17
田邉昇(弁護医師、中村・平井・田邉法律事務所)

 国内では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第5波がようやくピークアウトしてきた。ワクチン接種率を見ても、日本は世界に比してそれほど低くないレベルにまで達しており、それに加えて緊急事態宣言をしたにもかかわらず感染者数が過去最大規模まで拡大したのは、政府にとって想定外だったのだろう。

 ワクチン自体は重症化防止には有用だが感染抑止に関してはそれほどでもないようなので、変異株への置き換えもあって感染状況は諸外国も似たり寄ったりの傾向である。緊急事態宣言についても、ネーミングのおどろおどろしさに反して、オリパラ強硬開催、これに伴うマスコミの“コロナ報道”一時中断もあって効果が鈍ってきている。本来であれば、ロックダウンや緊急事態宣言の実施・解除の繰り返しによって、ハンマー&ダンスと言われるように波を制御し、徐々に波を小さくしていくはずが、ハンマーを振るうごとに山が高くなっている。

 その中で、東京都が厚生労働省と連名で、“徴医令”を発令した(令和3年8月23日厚生労働省発健0823第5号3福保感事第2357号)東京都の全医療機関に対して、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)16条の2第1項によって、「召集令状」を出すというのである。

 これは感染症法の改正によって作られた規定だが、何でわざわざこんなことをしたのか、全くもって意味不明である。もともと同法6条14、15項で病院を知事が感染症指定病院として「指定」し、COVID-19患者を強制入院させることができる(同19条を26条1項でCOVID-19に準用する)ので、粛々と都立病院、公社立、国立病院機構、地域医療機能推進機構(JCHO)病院などを必要なだけCOVID-19の指定病院にして、そこに患者を入院させればよいのにと思われる。

 感染症への対応の基本は隔離であるから、全ての医療機関に「受け入れろ」「交代で人を寄こせ」なんていうのは愚策中の愚策だろう。以前にも書いたが、所詮、政治家は選挙があるので、声の大きい者に従い、目先の帳尻のみを合わせることを考える(過去記事:高齢コロナ患者「入院順位下げメール」の是非)。今回のようなパンデミックについては、「戦争」なのだから、実際の戦略追行は、元帥・将軍の仕事であり政治家にさせるべきではない。全権を国民や都民から委譲された医療総統が必要であろう。かつて公用車で別荘に入り浸っていた元都知事が、尾見先生のIOCバッハ会長の再来日批判発言を「人事と予算ぶんどりにたけた政治家」の発言だと批判していたが、政治家ではないからこそできる発言で、批判は失当以外の何物でもない。

著者プロフィール

たなべ のぼる氏〇 1984年に名古屋大卒。都立駒込病院に勤務し、名古屋大学大学院で血液内科学を専攻する傍ら、救急医療、臨床腫瘍学などにも従事。旧厚生省などでの勤務を経て2001年に弁護士登録。診療を行う傍ら、医師の視点で弁護士として、非常勤裁判官として、医療訴訟を中心に多くの事件を担当。中村・平井・田邉法律事務所に所属。

連載の紹介

弁護医師・田邉昇の『医と法の視点』
話題の医療・医学に関連したニュースを、臨床医(総合内科専門医・血液専門医)でもあり、旧厚生省の勤務経験を持つ田邉昇氏が、法律家の立場で易しく解説します。

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