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変な解釈がまかり通る「美容整形と健康保険」

2020/10/14
田邉昇(弁護医師、中村・平井・田邉法律事務所)

 新たに総理大臣に就任した菅義偉氏が、不妊治療に関して健康保険の適用範囲を広げるといった独自の公約を掲げて話題になった。高度な不妊治療になると結構な費用がかかるので、今、治療を受けている女性などには朗報かもしれないが、生物学的に妊娠がうまくいかない妊活者の援助だけでなく、社会的な事情で子どもを持つのをためらう女性の支援も忘れずに願いたいものである。

 保険適用の対象が広がるからといって、油断できない面もある。健康保険の適用可否は本来、医学的な基準で判断されることになっているが、実際には経済的な問題や「大人の事情」が大きくかかわってくる。上述の不妊治療の保険適用にしても、分娩出産については正常分娩では保険が適用されないのはご存じの通りである。妊娠・出産は「病気ではない」というのが理由であるが、「不妊は病気なのか」というと、これも問題であろう。本人が苦にしているから病気だというのは、尋常性ざ瘡などの患者も診ている筆者にはよく理解できる疾病定義であるが、なら美容整形はどうか。本人が低い鼻や一重まぶたをいかに気にしていたとしても健康保険が適用されないということと、整合性が取れているのかという疑問が生じる。現在の姿を患者が苦にしていて、外貌の変更(ただし、侵襲的な介入がある)のみを目的とする行為が「医療」に当たるかどうかはまた、難しい定義問題である。

著者プロフィール

たなべ のぼる氏〇 1984年に名古屋大卒。都立駒込病院に勤務し、名古屋大学大学院で血液内科学を専攻する傍ら、救急医療、臨床腫瘍学などにも従事。旧厚生省などでの勤務を経て2001年に弁護士登録。診療を行う傍ら、医師の視点で弁護士として、非常勤裁判官として、医療訴訟を中心に多くの事件を担当。中村・平井・田邉法律事務所に所属。

連載の紹介

弁護医師・田邉昇の『医と法の視点』
話題の医療・医学に関連したニュースを、臨床医(総合内科専門医・血液専門医)でもあり、旧厚生省の勤務経験を持つ田邉昇氏が、法律家の立場で易しく解説します。

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