日経メディカルのロゴ画像

準強制わいせつ事件にみる刑法解釈の問題点
重要な2017年の「刑法大改正」と「最高裁の判例変更」

2020/08/24
田邉昇(弁護医師、中村・平井・田邉法律事務所)

 柳原病院(東京都足立区)の非常勤外科医が準強制わいせつ罪に問われたことに対する控訴審では、一審の無罪判決が破棄され懲役2年の有罪判決が下された(東京高裁2020年7月13日判決)。これについては、日本医師会・日本医学会が超異例の批判宣言を行うなど、医学界から大きな拒否反応が示されている。また、検察側の鑑定人が「術後せん妄については専門家でない」と法廷で自認していたことや、アミラーゼ鑑定やDNA定量検査のデータが残されていなかったことに対して、刑事訴訟的な視点からも、採証法則・心証形成の観点で判決に対する批判的な意見が述べられている(関連記事)。

 今回の事件に対する医療関係者の反応を見ると、「手術直後の患者に対して、誰もが出入りするような4人部屋で、回診していた執刀外科医が性的な行為をするなんて、あり得ない」といった医療現場にいる者だからこそ直感する率直な意見が多いようだ。しかしながら、どのような立場であっても、どのような場所でも性犯罪が起きる可能性があるのは事実である。医療分野では、最近でも手術室における性犯罪が報道された(時事通信社7月28日)。これによれば、整形外科手術中に他のスタッフもいる場面で、助手を務めていた医師が全身麻酔下にあった女性の下半身を数回触った疑いがかけられているようだ

※ただしこの事件は、2020年1月下旬に発生し、2月に所属病院の調査が実施された上で刑事訴訟法に基づき告発が行われたにも関わらず、乳腺外科医事件の控訴審後の日医らの声明(これが7月15日)を受けて医師の逮捕に至っており、タイミングとしては、やや恣意的な臭いがする。

 医師だけではない。2020年7月には、カトリックの神父による少年らへの性的加害(ブレナ事件)を描いた映画がわが国でも上映された(フランソワ・オゾン監督『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』)。また、最近のことだが、韓国・ソウル市長でセクハラ被害救済で有名になり、次期大統領候補にまで上り詰めた弁護士が執務室でセクハラを行った疑いがかけられ、本人は自殺した(現代ビジネス7月15日)。裁判官だって、児童買春(2001年11月28日裁判官弾劾裁判所判決)や、性的メールを送り付けるなどのストーキング(2008年12月24日裁判官弾劾裁判所判決)、盗撮(2013年4月10日裁判官弾劾裁判所判決)など、これまで色々とやっているので、加害者の属性、人柄、TPOなどから性的加害が「絶対にない」とまでは言えないというのも理解できる。控訴審での検察側の鑑定人は、「医師による性的被害は多く報告されている」ことを主張の根拠としていた。

著者プロフィール

たなべ のぼる氏〇 1984年に名古屋大卒。都立駒込病院に勤務し、名古屋大学大学院で血液内科学を専攻する傍ら、救急医療、臨床腫瘍学などにも従事。旧厚生省などでの勤務を経て2001年に弁護士登録。診療を行う傍ら、医師の視点で弁護士として、非常勤裁判官として、医療訴訟を中心に多くの事件を担当。中村・平井・田邉法律事務所に所属。

連載の紹介

弁護医師・田邉昇の『医と法の視点』
話題の医療・医学に関連したニュースを、臨床医(総合内科専門医・血液専門医)でもあり、旧厚生省の勤務経験を持つ田邉昇氏が、法律家の立場で易しく解説します。

この記事を読んでいる人におすすめ