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COVID-19と「戦争」する政治家たち

2020/05/12
田邉昇(弁護医師、中村・平井・田邉法律事務所)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と世界中が戦っている。これは「戦争」なのだそうだ。患者を受け入れている病院、特に感染症指定医療機関の大変さを言っているのではない。政治家のスタンスと国民の日常生活への規制のことである。

 「戦争だ」と言い始めたのは誰か。英国のジョンソン首相が3月13日の演説中にCOVID-19対策を戦争に例えて言い始めたとの記事もあるようだが、この時点では集団免疫路線を提言して、感染症状のある人の自主的なステイホームを提言していただけだ。「防衛線(Lines of Defense)」などの表現も使ったようだが、これはビジネスでも用いるので、直截(ちょくせつ)的なものではない。

 その後、医師でもなく、ロックダウンを強く提唱しながら自分はこっそり不倫密会して、先日、専門家会議の委員を辞任したファーガソン氏の報告書(Impact of non-pharmaceutical interventions (NPIs) to reduce COVID-19 mortality and healthcare demand. 16 March 2020.)によって、集団免疫路線では死者がたくさん出ると脅かされて、再度、テレビ演説で国民に外出禁止を要請したが、自身がCOVID-19によって集中治療室(ICU)入りする羽目になったのはご存じの通り。

 一方、フランスのマクロン大統領は3月16日に、「15日間、仏全土で外出を罰則付きで制限する」と発表した際、「我々は戦争状態にある」と語った(日経新聞[3月17日])。

 さすがに第2次世界大戦の敗戦国は、あからさまに戦争という言葉を使えないのか、ドイツは「統一以来、いや第2次世界大戦以来、わが国にとってこれほどまで連帯が重要になった試練はなかった」(時事ドットコムニュース)から、「国民は深刻に考えよ」と呼びかけているし、イタリアのコンテ首相は3月21日に演説し、「戦後で最も難しい挑戦だ」と語ったという(朝日新聞デジタル)。

 もちろん、威勢のよいトランプは「コロナとの戦争に勝つ」と言っている(朝日新聞デジタル)。COVID-19というより中国やWHOとの戦争じゃないかと思うが、医師でもない人をトップに据えているWHOへの拠出金を止めたのは日本も見習うべきかもしれない。WHOの歴史上、あり得ない人事なのだから。

 日本でも小池東京都知事は、現行法では不可能なロックダウン(都士封鎖)を勇ましく吠えたし、吉村大阪府知事はパチンコ店を社会の敵(public enemy)として攻撃して人気急上昇である。どうも強権派が支持を集めているようだ。安倍首相はご存じの通り、「おうちで過ごそう」で炎上した。

 「戦争」「緊急事態」というのは政治家にとっては、とても気分が高揚し、気持ちの良いものなのだろう。政治家になろうという人だから、講壇に上がり、大勢の公衆を前に、威勢よく声を張り上げるのは快感に違いない。臨床医が安らいだ顔の患者から、「おかげで楽になりました、ありがとう」と言われるくらいやりがいを感じるのだろうと推認できる。

著者プロフィール

たなべ のぼる氏〇 1984年に名古屋大卒。都立駒込病院に勤務し、名古屋大学大学院で血液内科学を専攻する傍ら、救急医療、臨床腫瘍学などにも従事。旧厚生省などでの勤務を経て2001年に弁護士登録。診療を行う傍ら、医師の視点で弁護士として、非常勤裁判官として、医療訴訟を中心に多くの事件を担当。中村・平井・田邉法律事務所に所属。

連載の紹介

弁護医師・田邉昇の『医と法の視点』
話題の医療・医学に関連したニュースを、臨床医(総合内科専門医・血液専門医)でもあり、旧厚生省の勤務経験を持つ田邉昇氏が、法律家の立場で易しく解説します。

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