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「HPVワクチン名誉毀損訴訟」で抱く違和感

2019/05/08
田邉昇(弁護医師、中村・平井・田邉法律事務所)

 最近、ワクチン接種に関するニュースが続いた。

 1つは、ヒト・パピローマウイルス(HPV)ワクチンの副反応研究に関する名誉毀損訴訟について3月26日に東京地方裁判所で判決が下された件だ。自己免疫疾患を発症しやすいモデルマウスを使って行った実験結果について、元信州大学教授の池田修一氏が発表した内容を「捏造」だと報道したことが名誉毀損に当たるとして、池田氏が掲載誌の『Wedge』を発行する出版社ウェッジと執筆者でジャーナリスト・医師の村中璃子氏を提訴した事案である。裁判では名誉毀損の事実を認め、村中氏らに330万円の損害賠償の支払いとウェッジに謝罪広告の掲載や記事の一部削除を命じた。ウェッジは控訴せず、村中氏は4月8日付で控訴している。

 もう1つは4月9日、米国ニューヨーク州のブルックリン地区で麻疹が流行していることを受け、ニューヨーク市長が同地域に居住・勤務・通学する人全員を対象に、麻疹ワクチンの予防接種の強制接種令を発令したというニュースだ(参考記事)。報道によれば、麻疹ワクチンの接種によって子どもが自閉症になるというデマを信じ、ユダヤ人コミュニティーの中で予防接種を拒否する親が増えていたという。その中のある家族がイスラエル旅行中に麻疹に感染し、流行が始まったようだ。

 なお、三種混合ワクチンの接種と自閉症発症の関連性は、英国のアンドリュー・ウェイクフィールド医師がワクチン訴訟を有利に進めるために研究不正を行って主張した根拠のないものだということが確立しているようである(C. Dyer, Lancet retracts Wakefield's MMR paper. BMJ.2010;340:c696.

 いずれもワクチン絡みの話題であるが、過去にもワクチンの副反応を巡る集団訴訟などが幾つもあり、医学的な問題というだけでなく、政治的・司法的な問題としても重要なテーマである。

著者プロフィール

たなべ のぼる氏〇 1984年に名古屋大卒。都立駒込病院に勤務し、名古屋大学大学院で血液内科学を専攻する傍ら、救急医療、臨床腫瘍学などにも従事。旧厚生省などでの勤務を経て2001年に弁護士登録。診療を行う傍ら、医師の視点で弁護士として、非常勤裁判官として、医療訴訟を中心に多くの事件を担当。中村・平井・田邉法律事務所に所属。

連載の紹介

弁護医師・田邉昇の『医と法の視点』
話題の医療・医学に関連したニュースを、臨床医(総合内科専門医・血液専門医)でもあり、旧厚生省の勤務経験を持つ田邉昇氏が、法律家の立場で易しく解説します。

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