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「透析中止事件」で見えてきた法的な論点

2019/03/25
田邉昇(弁護医師、中村・平井・田邉法律事務所)

 東京都福生市の公立福生病院で2018年8月、44歳の女性患者の血液透析を中止したことで約1週間後、患者が死亡した事件に関する報道が続いている。報道ベースではあるが、事実関係が次のように整理されつつある。

(1)女性は腎不全を患い約5年間、近隣の診療所で透析療法を受けていたが、シャントが閉塞したため2018年8月9日に公立福生病院を訪れた。

(2)医師は「首周辺にカテーテルを入れて透析を続ける方法」とともに、死につながるリスクがあることを伝えた上で「透析をやめる選択肢」を示した。

(3)女性は透析中止を選択した。夫と看護師同席で再確認した上で、女性が意思確認書に署名。透析治療は中止された。

(4)女性は「息が苦しい」と8月14日に公立福生病院に入院。その後、SNSなどで夫に対して透析中止を撤回する意向を示したり、医師に「透析を再開しようかな」などと口にした。医師は苦痛を和らげる治療を続け、結果的に女性は16日に死亡した(患者の透析再開の意向を医療者が無視したのか、それとも話し合いの末、最終的に患者が緩和医療を選択したのかどうかなど、詳細は不明)。

(5)夫は胃痛のために15日、同病院で緊急手術を受けており、妻の死に目に立ち会えなかった。

(6)東京都は、医療法に基づいて立ち入り検査を実施。都によれば、同病院の腎臓病総合医療センターが開設した2013年以降、女性を含めて4人が透析治療を中止していた。また、透析治療の経験がない17人の患者が、透析治療の非導入を選択しており、計21人全員が既に死亡していることが確認されている。

(7)日本透析医学会は、2014年に「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」という提言書をまとめている。この提言書には、維持血液透析の見合わせを検討する状況として、「多臓器不全や持続低血圧など、維持血液透析を安全に施行することが困難な場合」「脳血管障害や悪性腫瘍など患者の全身状態が極めて不良で、かつ『維持血液透析の見合わせ』に関して患者自身が意思を明示していたり家族が患者の意思を推定できる場合」の2つを示し、血液透析の中止要件を限定的に捉えている。今回の件は、この状況から逸脱していた可能性が高いということもあり、学会は調査委員会を立ち上げた。

著者プロフィール

たなべ のぼる氏〇 1984年に名古屋大卒。都立駒込病院に勤務し、名古屋大学大学院で血液内科学を専攻する傍ら、救急医療、臨床腫瘍学などにも従事。旧厚生省などでの勤務を経て2001年に弁護士登録。診療を行う傍ら、医師の視点で弁護士として、非常勤裁判官として、医療訴訟を中心に多くの事件を担当。中村・平井・田邉法律事務所に所属。

連載の紹介

弁護医師・田邉昇の『医と法の視点』
話題の医療・医学に関連したニュースを、臨床医(総合内科専門医・血液専門医)でもあり、旧厚生省の勤務経験を持つ田邉昇氏が、法律家の立場で易しく解説します。

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