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アメフト「QB潰せ」から考える医療界の規律

2018/05/29
田邉昇(弁護医師、中村・平井・田邉法律事務所)

 アメリカンフットボールの強豪である日本大のアメリカンフットボール部(以下、アメフト部)の選手が、ライバル校の関西学院大学のクォーターバック(QB)に対し、ホイッスルが鳴った後に後方からタックルを仕掛け、転倒して負傷させた事件が話題になっている。

 行為者には、明らかに傷害罪(刑法204条)が成立する。一般にコンタクトスポーツで、体当たり、果ては格闘技のように殴る蹴るの暴行を加えるなど、暴行や傷害罪の構成要件に該当しても、社会通念上許容されたスポーツ上のことであるから違法性が阻却されるため、不可罰と評価される。実は私も格闘技をたしなんでおり、週に2、3回は各種暴行行為を2、3時間行っているが、幸い弁護士バッジにも医師免許にも影響していない。

 「社会通念での許容」とは単にスポーツのルールに則っているというだけではないし、則っているから良いというものではない。例えば、平手での攻撃は松濤館流空手などの伝統派では反則とされることが多いが、試合中に平手で攻撃して暴行罪になるという話は聞いたことがない。一方で、受け身も不十分な中学生の白帯の初心者に、有段者が投げ技を仕掛けて頸椎損傷になれば傷害罪の成立は十分ある。アメフトOBのマスコミ人が今回の事件で、アメフトが危険なスポーツだと思われたくないなどと言っていたが、ルール上も、ボールに意識が向いている選手にとびかかって押し倒す行為が容認されている以上、本来は危険性があるものであり、それを社会が許容して、娯楽として観戦し、危険を楽しむ者が行っていることを忘れているようである。

 日大アメフト事件では、加害者の選手に弁護士が付いてマスコミに記者会見したのが功を奏したのか、世間は好意的な反応を見せている。被害者の父親が政治家のようなので、世間の意向を受けて宥恕(ゆうじょ、寛大な心で許すこと)の意思表示をすれば、検察官もまず不起訴であろう。顔も名前を出したことにマスコミは非常に好意的であるが、成年で、誰よりアメフトのルールには精通している日本代表級の選手なのだから、明確な犯罪を起こした以上、通常は顔も名前も出される運用であるのは当然のことだろう。

 一方、反則タックルを教唆したとされている辞任した監督や、コーチに対しては風当たりが強いようである。記者会見も、マスコミの作り上げたストーリー通りの会見内容でなかったというだけで、2時間も押し問答をして、司会が会見を終わらせようとしたことを逆恨みして、マスコミは批判している。2時間も時間をもらって、何も引き出せないのは、単に記者の能力が低いか、日大側の会見内容にぐうの根も出ないからに他ならない。医療事故でも記者会見などをすれば同様の目に遭うのは明らかなので、するなら世論誘導のため早期に行うか、マスコミがストーリーを作り上げてしまっているなら、あとは訴訟で明らかにした方が良い。

 日大や監督の会見などによると現在のところ、「相手がケガしたらなどと考えて、弱いタックルなんかしていてはだめだ。ぶっ潰すつもりで思い切りぶつかっていけ」という指示を、選手が「けがをさせろ」と誤解したというのが言い分のようである。あくまでルールの中でラフプレーが行われると考えていたという監督やコーチの言い分が、私には合理的な説明だと感じられた。今回のようなめちゃくちゃなことをしていては、選手は退場、出場停止で、駒が減るわ、対戦相手にも敬遠され、実戦練習量が減少するし、もちろん自身にも非難が来るので、指導者にとってはたかが対抗戦で勝つよりも不利益が大きいからである。

 その一方で、行為を行った者は大学生でアメフトの選手である以上、ルールも、ボールを持っていない相手にタックルをしてはいけないことなど、常識である。関東学連が、この主張を排斥したのは、単にメディアスクラムに屈した、あるいは早期の幕引きを図ったにすぎず、今までの医療事故冤罪事件の構図に類似している。

 刑法学の世界では、だめだとわかっていることを「規範に直面している」といったりする。故意犯が過失犯より重く罰されるのは、事実を認識している以上、そんなことをしてはダメだという規範に直面しているはずで、それをあえて乗り越えてやってしまうという人格に非難を加えるため、であると説明されたりする。

 しかし、ダメなことをやってしまうにあたって、そのハードルを越える行為を第三者が後押しするケースがある。ダメなことをしようとは思っていないのに、しようと思わせるような行為をするのを「教唆犯(刑法61条)」といい、ダメなことをしようと思っている犯人に、その実行を容易にする手助けをする行為をした場合に「従犯(刑法62条)」というカテゴリーで刑法は処罰することになっている。

 本件では、そんなとんでもない反則をする気のない選手に、やれと唆して、実行に移させたのであれば、教唆犯が成立する。

 しかし、監督側は、「あんな反則までするとは思わなかった、競技中にルール内でのタックルに手加減するなという指示だった」と主張している。これだと、教唆の故意がないので、監督側に教唆犯は成立しないことになる。しかし、その指示の仕方は、誤解を招いて、選手が傷害行為を行うかもしれないから、他の言い方で指示するべきであったということになれば「業務上過失致死傷罪(刑法211条)」が成立する。監督もコーチも、それが仕事だし、コンタクトスポーツの指導は危険性を帯びる行為だから一般的に業務性があるとされる。

 一方、選手は100%マインドコントロールされていて、監督やコーチの言うとおりに動くロボットであると考えるのであれば、ロボットを操作していた監督やコーチには「間接正犯」が問われることになる。あくまで監督やコーチの犯罪であって、選手は単なるロボットだということになる。しかし、やくざの世界で怖い組長の命令に従い下っ端組員が「言うことを聞かないと殺されるかもしれない」と止むを得ず行った犯罪の場合では間接正犯までは認めない。

 本件では、「レギュラーから外されるのは嫌なのでロボットになって犯罪行為をするしかないのだ」という言い訳が通用しないのは当然である。また、日大アメフト選手やコーチが一丸となって関西学院大QBをケガさせようと共謀していたとしたら、共謀チームのメンバーであった選手がQBがボールを持っていないときにタックルをしてたまたまケガをさせたとしても「共同正犯(刑法60条)」が成立する。

 さて、今回の事件を無理やりではあるが医療現場の話に置き換えて考えてみよう。例えば、今回の事件は以下のような出来事ではないか。

著者プロフィール

たなべ のぼる氏〇 1984年に名古屋大卒。都立駒込病院に勤務し、名古屋大学大学院で血液内科学を専攻する傍ら、救急医療、臨床腫瘍学などにも従事。旧厚生省などでの勤務を経て2001年に弁護士登録。診療を行う傍ら、医師の視点で弁護士として、非常勤裁判官として、医療訴訟を中心に多くの事件を担当。中村・平井・田邉法律事務所に所属。

連載の紹介

弁護医師・田邉昇の『医と法の視点』
話題の医療・医学に関連したニュースを、臨床医(総合内科専門医・血液専門医)でもあり、旧厚生省の勤務経験を持つ田邉昇氏が、法律家の立場で易しく解説します。

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