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非医師がタトゥーを彫るのは医師法違反か

2017/11/17
田邉昇(弁護医師、中村・平井・田邉法律事務所)

 皆さん初めまして。弁護医師の田邉昇です。この連載では話題の医療・医学に関連したニュースを易しく解説していきます。今回取り上げるのは、大阪で彫り師としてタトゥーを入れることを業としていた男性が、医師の免許がないにもかかわらず、2015年3月までの8カ月間に客3人にタトゥーを施したとして起訴されていた事件です。大阪地裁は平成29年9月27日、医師法違反の有罪判決(罰金15万円)を下しました。

 この判決は、新聞報道などがあって話題にはなりましたが、入れ墨が医師法17条違反であるとの判断は、既にアートメイク事件(東京地方裁判所判決平成2年3月9日判決 判例時報1370号159頁)でされているので新しいものではありません。

 本事件の争点は、タトゥーを施すことが、医師法17条の「医業」に該当するかどうか、そして「医師でなければ医療行為をしてはならない」と定めた医師法の条文が、憲法上の職業選択の自由(憲法22条1項)、表現の自由(憲法21条)、自己決定権(憲法13条)侵害、あるいは罪刑法定主義(憲法31条)に抵触するかどうかという点です。

 大阪地裁の裁判で弁護側は医師法の解釈について、タトゥーを彫る行為は病気の治療や予防が目的の医療行為にはあたらず、医師法の「医業」ではないとして、従来の最高裁判例に異議を唱えています。一般に憲法違反などは、よほどの事案でない限り、認められないものですが、今回、弁護側は「タトゥーをするのに医師免許を求めることは彫り師になる機会を狭め、職業選択の自由を制限することになる。彫り師にとってタトゥーは芸術作品でもあり、創作活動(表現の自由)が制約されかねない」などと主張しました。

 医師法17条は医師でなければ医業をしてはならないとして、31条1項で刑事罰をもって規制しています。そして「医業」については、「医行為を業として行うこと」と一般に解されていますが、医行為自体も法律の条文で明確に定義されていません。そうした観点から罪刑法定主義を主張したくなるのも分からないではありませんが(例えば看護師の静注は長らくグレーゾーンでした)、最高裁は、医行為について、「医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」と解しており(最高裁第3小法廷昭和30年5月24日刑集9巻7号1093頁)、通説とされています(大谷實、「医師法17条にいう『医業』の意義」、大塚・福田古稀祝賀 上巻449頁)。

 タトゥーが感染など健康被害を生じかねないことは、弁護側もあまり争わなかったようですが、皮膚障害、色素などによるアレルギー反応、ウイルス感染が生じる可能性があります。「保健衛生上の危害を生ずるおそれのある行為」のため、「危険性を十分に理解し、適切な判断や対応を行うためには、医学的知識及び技能が必要不可欠」であるから、医師法の医療行為にあたると裁判所は認定しています。

 タトゥー実施に医師免許を求めることで、表現の自由や個人の自由、職業選択の自由が制限されたとしても「公共の利益を保護するために必要かつ合理的な措置」であるとして、憲法違反との主張をさらっと切り捨てています。また「通常の判断能力を有する一般人にとっても判断可能」であり、医師免許がないのにタトゥーを施した人を処罰することは罪刑法定主義に反しないとしました。これも徳島公安条例事件最高裁判例(最高裁昭和50年9月10日判決刑集29巻8号489頁)で確立している解釈です。

著者プロフィール

たなべ のぼる氏〇 1984年に名古屋大卒。都立駒込病院に勤務し、名古屋大学大学院で血液内科学を専攻する傍ら、救急医療、臨床腫瘍学などにも従事。旧厚生省などでの勤務を経て2001年に弁護士登録。診療を行う傍ら、医師の視点で弁護士として、非常勤裁判官として、医療訴訟を中心に多くの事件を担当。中村・平井・田邉法律事務所に所属。

連載の紹介

弁護医師・田邉昇の『医と法の視点』
話題の医療・医学に関連したニュースを、臨床医(総合内科専門医・血液専門医)でもあり、旧厚生省の勤務経験を持つ田邉昇氏が、法律家の立場で易しく解説します。

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