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【連載21回 スキル編(9)】
専門医かプライマリケア医か?

2007/08/15

 2年前から年に1度だけ、ある私大医学部の3、4回生に「専門医かプライマリケア医か?」というタイトルで講義を行っている。将来何科の医者になるかまだ決めやらないでいる彼らに何らかの示唆を与えられればと願ってのことだが、ひょっとして、とんだ誤解をしていないか、ならば早いうちに改めてもらわねば、との思いも加わっている。

専門医の方がなりやすい
 その誤解とは、プライマリケア医になるのはたやすいが、専門医になるには長い研鑚の日々が要るだろう、というものである。とりわけ外科の世界で膵臓や肝臓のような大手術をやってのけるには気の遠くなるような年月を要するのではないか、と。

 実際は、そうではない。消化器外科と言っても、上部消化管(胃、食道)、肝胆膵、下部消化管(小、大腸)と細分化され、専らその分野だけに従事していれば、膵頭十二指腸切除のような腹部外科で最も難しい手術でも、5~6年で一人前にこなせるに至るだろう。

 まして、最近独立した専科として大学病院やがんセンターに設けられるようになった「乳腺外科」や巷間見受けられる「甲状腺外科」など、より特化した分野に至っては、年柄年中そればかりに携わっていれば、ほんの数年で一人前になれそうだ。

 内科領域も近年著しく細分化されて、神経系、内分泌系、膠原病、消化器系、などと区分され、大学病院や大病院ではそれぞれに専門家と称する人たちが診察に当たっている。こちらも、その専門分野を極めるだけなら、5~6年もあれば十分であろう。

プライマリケア医は簡単にはなれない
 一方、プライマリケア医には、そう簡単にはなれない。先ごろ、島内の県立病院で卒後研修を行っている若い医学徒の本音を聞く機会を得た。

 ほぼ半年ごとに数科をローテートして2年の研修期間を終えることになるが、それでいったいどれだけのことが身に付くのか、はなはだ心許ない、と。毎日朝から晩まで「金魚の糞」のように先輩医師にくっついて研修しており、充実感はあるのだが、もとよりそれで専門医になれる訳ではないし、数科を回っただけではプライマリケアに精通したともいえない、いかにも中途半端な気がする、と。

 正にその通りで、彼がその後、専門医の道を歩むとしたら、研修医としての2年間、ほんの上っ面だけかじった数科の知見、技量はさして有意義なものにはなり得ないかも知れない。

 一方、プライマリケア医を志す者にとっては、その2年間の研修は決して無駄なものではなく、将来に生かされるはず。例えば、彼が婦人科、麻酔科、外科、泌尿器科をローテートしたならば、下腹部痛を訴えて来る女性には、ためらわず内性器を探るべく内診を試みるだろうし、患者が急変してショック状態に陥ったときはすかさず気道を確保するだろう。外科で半年間研鑚を積めば、縫合の技術くらいはマスターできるだろうから、近くに外科医のいない過疎の地に赴いても、けが人の処置くらいはできるだろう。泌尿器科を半年間回っただけでは腎臓摘出などの手術は毛頭できないが、アッペ(急性虫垂炎)と尿管結石、さては急性腎孟腎炎との識別くらいは付くだろう。

 問題は、2年の研修を終えた時点でプライマリケア医になろうとしても、その受け皿が現行のシステムでは見出せないことである。

(次ページに続く)

著者プロフィール

大鐘 稔彦(南あわじ市国民健康保険阿那賀診療所院長)●おおがね としひこ氏。1968年京大卒。民間病院の院長、外科部長などを経て、99年より南あわじ市国民健康保険阿那賀診療所(兵庫県南あわじ市)院長。

連載の紹介

研修医必見!臨床のスキルとマナー
患者に選ばれる医師になるには?医療訴訟に巻き込まれることなく的確な医療を実践するには? ベテラン医が、自身が体験したエピソードをベースに、診療のコツや臨床医としてのマナーを説きます。

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