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【連載第16回 スキル編(4)】
視触打聴診をマスターせよ―その3

2007/06/01

打診も習慣付けよ
 胸や背に聴診器を当てるが、打診を試みる医師はほとんど見られなくなった。

 昔の医者は打診する姿がさまになっていた。ポリクリ実習で内科を回ったとき、Y教授が患者の胸部に指をあてがって打診すると、ポンポーンと小気味良い音が室内に響き、その品格ある風姿とともに憧れたものだ。

 肺の病変は打診よりも聴診の方が得られる情報が多いから省きがちなのだが、胸水の有無は聴診よりも打診で知られる。また、胸部の打診は肺のほかに心肥大の情報を得る意味がある。心濁音界の広がりでこれをキャッチできる。打診での情報と胸部X線での心陰影の大きさを照合する訓練を付けると打診も楽しくなる。
 
 LLB(肺肝境界)を知るには打診に限る。空気を含んだ肺は打診すると明るい「resonant sound(共鳴音)」として聴取される。それが、横隔膜を介して肝臓に移行すると鈍い「dull sound(濁音)」に変わる。通常、急激な腹痛を訴えて来た患者には触診と共に打診でこのLLBの有無を確認することが先決である。これが消えていれば―共鳴音がずっと下方まで続くなら―、胃や腸が破れて中の空気が腹腔内に漏れ出たことを疑わせる。空気は軽いから、臥位では肝臓の表面腹側に移行し、肝臓の濁音界を消してしまうのである。

閃いた疑問はないがしろにするな
 医者になって4年目くらいのある休日、日直に病院に赴いた早々、芳紀(ほうき)20歳ばかりの娘さんがかつぎ込まれてきた。目鼻立ちの整った佳人だが、苦痛で顔が歪んでいる。みぞおちのあたりを抱え込んで横向きに体を丸めている。

 朝食後、急にみぞおちの痛みを訴え、その痛みは次第に腹全体に広がってきたという。熱も出てきたという。

 触診してみると、確かに腹部全体に圧痛を認める。深触診では右下腹部に顕著である。デファンス(筋性防御)も上腹部から右下腹部にかけて認める。汎発性腹膜炎の所見である。原因は、若い娘さんであり、最も身近なものでアッペ(虫垂炎)が考えられた。無論、虫垂が腐って破れたことによるものである。

 しかし、念のためLLBを探る。女性の場合、LLBは探りにくい。胸部の打診は半ば乳房の上から行うことになるからである。乳房は脂肪と乳腺の塊だから肺の共鳴音を聞き取りにくくさせるのである。

著者プロフィール

大鐘 稔彦(南あわじ市国民健康保険阿那賀診療所院長)●おおがね としひこ氏。1968年京大卒。民間病院の院長、外科部長などを経て、99年より南あわじ市国民健康保険阿那賀診療所(兵庫県南あわじ市)院長。

連載の紹介

研修医必見!臨床のスキルとマナー
患者に選ばれる医師になるには?医療訴訟に巻き込まれることなく的確な医療を実践するには? ベテラン医が、自身が体験したエピソードをベースに、診療のコツや臨床医としてのマナーを説きます。

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