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【連載第15回 スキル編(3)】
視触打聴診をマスターせよ―その2

2007/05/24

患者を直視せよ
 視診の基本は、患者から目を背けず、常に向き合って相手を直視することである。マナー篇で既述したが、外来で診察室に入って来る患者を横を向いたまま迎えてはならない。

 マナーとしても失礼なことだが、臨床医としては、患者の足取り、顔色、目つきに注意を凝らすことこそ第一に心得るべきことである。特に神経系の症状を訴えてきた患者にはこの観察を怠ってはならない。患者が座ってから向き直るようでは、貴重なサインをみすみす見逃すことになる。パーキンソン病の患者はその歩き方―いわゆる鶏歩―を見ただけで診断が付く。

 「問診表」の主訴に「食欲がない、体重が落ちてきた」と書かれてある40歳そこそこの男性が診察室に入ってきた。心配でたまらないといった顔の奥さんに支えられている。土気色の顔色と落ち凹んだ眼窩の暗い眼差し、痩せ細ったその体を見ただけで、消化器系、恐らくは胃癌に犯されているな、と直感できた。腹部に明らかな腫瘤は触知し得なかったが、次に直腸診を行って直感に狂いはないと確信した。直腸の奥、骨盤底のダグラス窩にるいるいとした塊を触れたからである。いわゆる “シュニッツラー転移“で、消化管、主として胃癌の末期に見られる所見である。

 果たせるかな、胃はほとんど癌に犯され、腹腔内のあちこちにも癌が散ってもはや手遅れの状態だった。

触診は腰をすえて行え
 肺の病変を探るために胸部を触診することはまずないが、心臓の拍動の最強点は触診によって知ることができる。通常は左の乳首の内側に留まっている。これが乳首よりも外側に触知される場合は左室肥大が疑われる。心房細動を患っている患者は例外なく心臓は拡張しており、心尖部は左乳首の外側に来る。この種の患者は 急性心不全の予備軍であり、水分の取り過ぎや薬の服用を怠ることで容易にこの非常事態に移行する。外来に入って来る段階で、喘息様に苦し気に息をついていることでそれと察せられるが、まずは心尖拍動の最強点を触診で探ることである。左に移動しているはずだが、それには日ごろからこうした患者の胸部を触れて記録に留めておくことが肝要である。確診には無論胸部X線写真を撮る必要があるが、触診だけでも十分診断が付くし、問診で起坐呼吸を確認すれば 慢性心不全の急性増悪と診断が付く。

 しかし、触診が最も威力を発揮するのは、何と言っても腹部内臓器の異変時で、腹痛を訴えて来た患者には躊躇(ちゅうちょ)なくこれを行わなければならないが、注意すべきことが幾つかある。

著者プロフィール

大鐘 稔彦(南あわじ市国民健康保険阿那賀診療所院長)●おおがね としひこ氏。1968年京大卒。民間病院の院長、外科部長などを経て、99年より南あわじ市国民健康保険阿那賀診療所(兵庫県南あわじ市)院長。

連載の紹介

研修医必見!臨床のスキルとマナー
患者に選ばれる医師になるには?医療訴訟に巻き込まれることなく的確な医療を実践するには? ベテラン医が、自身が体験したエピソードをベースに、診療のコツや臨床医としてのマナーを説きます。

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