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日経おとなのOFF presents 医師の絶対教養 美術編

2019年に絶対見るべき美女たち(1)
クリムトが描いた男の寝首を掻く「ユディト」
作家・ドイツ文学者の中野京子氏と読み解く

2019/01/05
大旗規子=ライター

 2019年の美術展も必見名画が目白押し。なかでも目玉は、西洋絵画史に燦然と輝く美女たちだ。聖書に登場するマドンナから退廃的な熟女、いたいけな少女から印象派の画家に愛された市井の美女、果ては巨大な女神まで、多彩な美貌に浴することができる。

 ベストセラー『怖い絵』シリーズの著者で、昨年その書名を冠した展覧会の特別監修を務めた中野京子さんも、「マネの絶筆『フォリー= ベルジェールのバー』やクリムトの『パラス・アテナ』など、見るべき作品が多い」と注目する。

 画家ならずとも、男はいつの時代も美女が大好き。女もハンサムウーマンに見とれ、憧れる。だが、美しい花に棘があるように、美女もそのまなざしの奥にゾッとするような冷酷さやスキャンダルの匂い、猛毒の棘を秘めていることがある。そうした作品世界の奥を知ると、「全く違う絵が見えてくる」と中野さん。

 例えば、旧約聖書に登場する美女、ユディト

 ウィーン世紀末に活躍した人気画家クリムトが描いたユディトは、金箔に彩られたゴージャスな画面にはエロスと退廃美が匂う、強烈な色香を放つ成熟した女性。聖書のユディトは裕福な未亡人だから、年齢やゴージャスな雰囲気はぴったり。しかし、その手に肝心の剣がない。

 美女と生首を描くとき、その手に剣があればユディト、皿の上に首を載せていればサロメ、というのが西洋絵画のお約束。掟破りをカバーするためか、画家は自らデザインした額縁に「JUDITH(ユディト)」と記している。

 当時、クリムトには複数の愛人がいて、経済的にも精神的にもトラブルに悩まされることが多かったという。自他共に認める艶福家の彼が自分の素行を戒めた絵なら、生首は自画像か――と想像をたくましくしたくなるが、男の顔は半分隠れ、残念ながら顔立ちも表情も判然としない。

 その髪を愛撫するような女性の指の表情、半開きの目と唇。理性では抵抗できない性的魅力にあふれている。「これは、女性の恍惚の瞬間を知り尽くした画家ならではのユディト。彼の絵筆にかかると、救国のヒロインも官能的なファム・ファタル、男を破滅させる運命の女になる」(中野さん)。正義の剣を持たせなかったのも、あえての仕掛けだったのか。

※ユディトは紀元前2世紀頃に書かれた旧約聖書外典に登場する美女。彼女の住むユダヤの町ベトリアに、ホロフェルネスが軍を率いて侵攻。町は降伏の危機に瀕するが、ユディトが侍女を伴って敵陣に赴き、ホロフェルネスの寝首を掻かいて持ち帰る。頭領を失った敵軍は敗走。ユディトはその美貌でユダヤを救ったヒロインだ。

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連載の紹介

日経おとなのOFF presents 医師の絶対教養 美術編
レオナルド・ダ・ヴィンチの時代、医学と芸術に境界はなかった――。いつの間にか生じてしまった医学と芸術の境界を埋めるため、日経メディカル Onilneと、人生をより豊かにするオフ生活情報誌「日経おとなのOFF 」がコラボし、同誌に掲載された美術展情報をお届けします。芸術好きの先生はもちろん、「美術展になんて興味がなかった」という先生方の“絶対教養”向上に貢献します。診療の合間の息抜きや、日常からのつかの間の逃避行に、お役立てください!

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