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第19回 高齢者の心房細動<後編>
心房細動治療の究極の目標とは

2014/04/25

指導医 前回、高齢者の抗凝固療法に関するエビデンス情報を整理したので、今回は実際にMさんに抗凝固療法を開始すべきかどうかを考えましょう。いつものように、エビデンスと患者の問題、医師の専門性に分けて整理してみようか。

研修医 はい。まずエビデンスとしては、ワルファリン管理が一定レベルであればベネフィットがリスクを上回ることが示されています。一方、Mさんに転倒の既往はありませんが、室内を捕まり歩きしていることを考えると、転倒リスクについては家庭内の段差やご家族の見守りがどの程度かが重要になると思います。服薬アドヒアランスは、娘さんがどれだけ熱心に管理できるかによるところが大きいと思います。

 医師側ができることとしては、まず血圧をもう少し下げたいところです。併用薬剤としては無駄な薬は処方されていないように思われますが、睡眠導入剤の必要性などは、改めて検討しても良いと思われます。

指導医 研修も終わりになると、非常に立派な答えが返ってくるようになりますね。ほとんど満点の、優等生の回答です。ぼくも、今挙げられた条件がほぼクリアできれば、まずワルファリンから考えてみていいと思います。腎機能がまずまずなので新規抗凝固薬も視野に入るけれど、85歳ともなると思わぬ腎機能低下などがあり、微調節ができるワルファリンのほうが安心できるかもしれません。

 ただし、Mさんの場合何よりも大切なのは、認知機能低下があるわけで、ご家族、特に娘さんの意向を十分考えることだろうと思うのです。ここで大事なのが、医療者と患者・家族が抗凝固療法のゴールを共有すること。そして、リスク/ベネフィットバランスを分かりやすく説明し、リスクを減らす方法を伝えることです。

 Mさんの場合、これまで全く抗凝固薬のことが問題になってこなかった事情を考えると、まず、心房細動という疾患を今現在持っていることと、それに起因する脳塞栓のリスクがあるのだという問題意識を持っていただくことから始める必要があります。その上で特に虚弱高齢者の場合、ゴールをよく考えることが必要になります。

 図1は、脳梗塞で入院した患者さんの退院時の状態の検討1)です。他のタイプの脳梗塞に比べて、心原性脳塞栓は、半数以上の人(54%)が要介護状態または寝たきりか死亡という重篤な転帰をたどります。抗凝固薬による出血のリスクよりも、このようにより手厚い介護が必要となる重い状態になるリスクの方が高いことを、まずしっかり伝えることが大切です。

 その上で、そのゴールに向けて患者さんとそのご家族、および医療者がお互い何をすべきかを共有し合うことが大切です。ご家族には服薬の大切さをしっかり理解してもらう。医師としては、出血をできるだけ減らすように、不要な薬剤を減らしたり、血圧管理をより厳しくする予定であることを伝えるわけです。

著者プロフィール

小田倉弘典(土橋内科医院〔仙台市〕院長)●おだくら ひろのり氏。1987年東北大医学部卒。仙台市立病院循環器科、国立循環器病センター、仙台市立病院循環器科医長を経て2004年より現職。ブログ「心房細動な日々」

連載の紹介

プライマリケア医のための心房細動入門
患者数が増え続け、治療方針も大きく変化している心房細動。循環器疾患を専門としないプライマリケア医向けに、実際の症例や最新のエビデンスを交えながら、心房細動の診断、治療を“分かりやすさ最優先”で解説します。
『プライマリ・ケア医のための心房細動入門』が書籍になりました

 本連載のバックナンバーを大幅に加筆・修正し、書き下ろしも加えて全体を再構成。2014年1月に発表された「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)」の内容も踏まえ、「リスクマネジメント」の視点から心房細動診療の進め方を分かりやすく解説しました。(小田倉弘典著、日経BP社、3500円税別)

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