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第12回(最終回特別編)
EBMに潜む八つのワナ~論文を正しく読むコツ~

2014/08/18

 前回まで、血管合併症予防に関するエビデンスの有無に基づいた糖尿病治療薬選択を推奨している国立国際医療研究センター病院による「糖尿病標準診療マニュアル」1)に沿って、糖尿病治療について包括的に吟味してきた。最終回は、エビデンスに“使われない”ために知っておかなければならない統計学的落とし穴について復習をしながらまとめたい。たとえ一流医学誌に掲載された論文であっても、結果だけをうのみにせず、妥当性が低ければ話半分に論文を読むことが大切である。

【その1】
二次エンドポイントはオマケ~朝三暮四に注意~第1回第9回参照)
 研究で実証できるエンドポイントは一次エンドポイントだけであり、二次エンドポイントは仮説を実証するものではなく示唆するオマケにすぎない2)3)。実際、心不全患者におけるアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)とアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)の腎機能(一次エンドポイント)への影響を比較したELITE研究4)では、一次エンドポイントには有意差がなかったものの、二次エンドポイントであった死亡率においてARBがACEIより低下率が大きいことが示唆された。そこでその仮説を実証するためにELITEの二次エンドポイント(死亡率)を一次エンドポイントとしてELITE II5)研究が実施されたが、有意差は認めずARBの優位性は実証されなかった。

 製薬企業がスポンサーの臨床試験では、一次エンドポイントで有意差がない場合(いわゆるネガティブスタディ)、何とか実薬の優位性をこじつけようとして二次エンドポイントの中から少しでも有意差のある部分が誇張されることが多々あるため、情報操作(spin)に気を付けたい6)7)。特に、論文著者の中にスポンサー企業員が含まれている場合は、少しでもいいように解釈されている傾向にあるため(親の欲目バイアス)、大きく割り引いて読む必要がある。

【その2】
後付け解析は“後出しジャンケン”第2回参照)
 仮説を検証する研究では、妥当性・客観性を高めるためにバイアスを極力排除することが重要である。解析法に関しては、研究開始前に研究デザインやデータ特性に基づいて設定しておくことが基本となる。先にデータがあって中身が判明していると、いいとこ取りの“後出しジャンケン”と同じでフェアな解析・解釈が困難となる(情報バイアスと言う)。後付け(post hoc)解析は情報バイアスが極めて大きいため、仮説検証ではなく仮説提唱・探求に過ぎない(日本糖尿病学会の新ガイドラインでは、RCTの後付け解析はレベル3に新たに設定された)。特に、一次エンドポイントで有意差を認めなかった臨床試験の後付け解析による情報操作に注意すべきである8)3)

 参考として、大規模研究の後付け解析の例を紹介しよう。
<NICE-SUGAR研究>
 オリジナル解析9)では、血糖の厳格な管理によりICU患者の死亡リスクが有意に増加することが示された(一次エンドポイント)。後付け解析10)では、低血糖の増加が死亡リスク増加の原因である「可能性が示唆された」が、医学的に理に適っていても後付け解析は両者の関連性を示すだけで、因果関係までは究明できない(低血糖は真の死因ではなく基礎疾患の重篤度のマーカーに過ぎないのかもしれない)。

<ADVANCE研究>
 オリジナル解析11)では、血糖の厳格な管理により細小血管症リスク(腎症の定義は顕性腎症発症・血清クレアチニン値の倍加・腎代償療法導入・腎疾患死)が有意に低下することが示された(事前に定められた一次エンドポイントのサブ解析)。後付け解析12)では、厳格な血糖管理により末期腎不全・微量アルブミン尿・顕性アルブミン尿いずれの発症リスクも有意に低下する「可能性が示唆された」。後付け解析では、代用エンドポイントだけではなく真の(臨床的)エンドポイントを評価しているがバイアスが大きい解析のため、仮説として大きく割り引いて読むことが重要である(オリジナル研究解析に事前に末期腎不全も入れておけば妥当性の高い結果が導けたかもしれない)。

著者プロフィール

能登洋(国立国際医療研究センター病院 糖尿病・代謝・内分泌科 医長)●のとひろし氏。東大医学部卒。同大附属病院、ベス・イスラエル医療センター(米国)、東京厚生年金病院、テキサス大サウスウェスタン医療センター(同)などを経て、2009年から現職。10年から東京医科歯科大臨床教授。

連載の紹介

糖尿病治療のエビデンス
近年、糖尿病治療に関するエビデンスが急増しているが、統計学的解釈が誤っているために正しく理解・活用されていないことが多い。エビデンスは玉石混交であり、“石”のエビデンスにだまされてしまうことすらある。この連載では、2型糖尿病治療における“真”のエビデンスを知り、それを日常臨床に役立てるためのノウハウを紹介したい。

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