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第1回
血糖の厳格管理で死亡率は減る。○か×か?

2013/05/07

 この連載では、EBM(Evidence-Based Medicine)に則って批評を交えながら、糖尿病治療の意義と薬物療法の効用について検証してみたい。第1回ではまず、治療の前提となる血糖コントロール目標値の考え方をおさらいしてみよう。

 糖尿病診療の目的は、細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)や大血管症(動脈硬化性疾患、心血管疾患)といった糖尿病合併症の発症・進展を防止することで、患者の日常生活の質(QOL)を維持し、健康寿命の確保をすることである。そのための血糖のコントロール目標としては、一般的に「HbA1c 7.0%(NGSP値、従来のJDS値で6.6%)未満」が推奨されている1)

 さて、ここで問題。高血糖は死亡のリスクファクターである。では、血糖コントロールを厳格にすればするほどこれらのリスクは低下するだろうか?

 答えは、現時点の実証報告によると「×」である。一般に、血糖コントロールは厳格であることが望まれるが、実は厳格すぎても付加価値はあまりなく、むしろ低血糖の危険性が増加したり、死亡率が高まったりする事例もある。

死亡リスクの低下効果は不明
 まず、細小血管症の発症・進展抑制に対して、血糖コントロールが与える影響について見てみよう。

 厳格な血糖コントロールを行うと、全体的には、細小血管症の発症・進展リスクが低下することが、日本人を対象にした試験「Kumamoto スタディ」により、実証されている2)。これは、2型糖尿病患者110人をインスリンで治療して血糖コントロールと細小血管症の発症・進展を検証した試験で、血糖コントロールを厳格にするほど網膜症や腎症の進行が抑えられることが試験結果から明らかになった(図1)。ただし、HbA1c(以下NGSP値)を7.0%未満にコントロールしても、それ以上のリスク低下はほとんどない。また、血糖を下げるスピードも重要なポイントで、急激な低下により網膜症や神経障害が一時的に悪化することが他の研究からも報告されている。

著者プロフィール

能登洋(国立国際医療研究センター病院 糖尿病・代謝・内分泌科 医長)●のとひろし氏。東大医学部卒。同大附属病院、ベス・イスラエル医療センター(米国)、東京厚生年金病院、テキサス大サウスウェスタン医療センター(同)などを経て、2009年から現職。10年から東京医科歯科大臨床教授。

連載の紹介

糖尿病治療のエビデンス
近年、糖尿病治療に関するエビデンスが急増しているが、統計学的解釈が誤っているために正しく理解・活用されていないことが多い。エビデンスは玉石混交であり、“石”のエビデンスにだまされてしまうことすらある。この連載では、2型糖尿病治療における“真”のエビデンスを知り、それを日常臨床に役立てるためのノウハウを紹介したい。

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