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染色体トリソミーや癌の治療への応用研究も
蛋白質を作らず、染色体不活性化を担う「XIST」とは?

2015/12/09
西村 尚子=サイエンスライター

 教科書には、遺伝情報は「DNA→メッセンジャーRNA(mRNA)→蛋白質」のセントラルドグマに従うとある。ところが現在では、RNAに転写はされるものの、蛋白質をコードしない非コードRNA(ノンコーディングRNA:ncRNA)が多数存在することが分かっている。これらのncRNAのうち、「20~25塩基のマイクロRNA(miRNA)」については解析が盛んで、既に1400種以上が同定されている。癌や脳神経疾患と関与するものも多くあることが分かっている。

 一方、数千~数十万塩基に及ぶ長いncRNA(長鎖ncRNA)は、きわめて扱いづらく、解析が難しい。そのため、研究は一部で細々と行われている状況にあるが、最近になって成果が出始めた。例えば、約2万(20キロ)塩基のXIST(イグジスト)と呼ばれる長鎖ncRNAに、医学応用の可能性が見いだされている。

ゲノムの7割以上を占めるncRNA
 ncRNAの重要性は、2002年に終了したヒトゲノム計画によって明らかになったといえる。同計画では、蛋白質をコードする遺伝子の数が予想をはるかに下回る約2万個しかなく、全ゲノムの2%ほどでしかないことがわかった。このことが逆説的に、残りの98%に何らかの機能が秘められていることを示唆したのだ。当時、理化学研究所の林崎良英氏らは、マウスではゲノムの50%強がncRNAを作るための配列で、様々な遺伝子発現の調節を担うことを突き止めていた。ほどなくして、ヒトではゲノムの70%以上がncRNAを作るための配列だとわかり、短く解析しやすいものから手が付けられていった。

 長鎖ncRNAは敬遠され続けたが、配列情報による推定では「長鎖ncRNAの種類の多さ」と、「蛋白質との相互作用の多彩さ」が際立つことが伺えた。その後、XISTを含む複数の長鎖ncRNAについて、癌との関連が報告されるようになり、少しずつ検体を対象にした解析も行われるようになった。

X染色体を丸ごと不活性化するXIST

著者プロフィール

西村尚子●にしむら なおこ氏。1991年早稲田大学人間科学部人間基礎科学科卒業。専攻は細胞生物学。約10年にわたり科学雑誌『ニュートン』の編集に携わった後、フリーランスのサイエンスライターとして活躍中。主な著書に『知っているようで知らない免疫の話』(技術評論社)、『花はなぜ咲くの?』(化学同人)など。

連載の紹介

西村尚子の「サイエンス最先端」
ネイチャー アジア・パシフィックの特約記者や、サイエンス・メディア・センター(SMC)の非常勤スタッフとしても活動する筆者が、医療・医学につながる最先端の科学ニュースを、楽しく、分かりやすく紹介します。

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