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羊水は無菌じゃない!細菌叢が早産に関与?
妊娠とマイクロバイオームとの不思議な関係

2015/03/30
西村尚子=サイエンスライター

 日本の出生率が過去最低を更新する一方で、30代後半に入ってから不妊であることに気づき、高度な生殖医療を受ける女性が増えている。その結果、「約27人に1人」、つまりクラスに1人は体外受精で生まれた子どもがいる時代を迎えている。千葉県浦安市では、卵子の老化による将来の不妊を防ぐ目的で、20歳代のうちに卵子を採取して凍結保存する臨床研究を順天堂大学浦安病院と共同で2015年4月から始めると発表した。さらに、子宮癌などで子宮を摘出したり、先天的に子宮がないといった場合に、他人の子宮を丸ごと移植するという驚くべき試みもあり、スウェーデンでは昨年、移植後の女性(36歳)が男児を出産した。

 こうして、高齢かつハイリスクな妊娠や出産が増えるにつれ、妊産婦を対象にした細菌叢(マイクロバイオーム)解析にも注目が集まっている。調べるのは、膣内、羊水、胎盤、臍帯血などに存在する微生物(主に細菌や真菌)のDNA断片だ。前回のコラムで紹介したメタゲノム解析(環境中の全ての微生物ゲノムを解析)だけではなく、細菌由来のリボソームRNA遺伝子を調べる「16S rRNA遺伝子解析」も取り入れられようとしている。

 16S rRNA遺伝子とは、16S rRNAをコードしている、つまり転写により16S rRNAを作り出す遺伝子(DNA領域)のこと。この解析も、次世代シーケンサーを用いることで細菌培養をせずに行えるが、最大のメリットは混在する患者由来のDNAを確実にキャンセルできる点にある。ヒトのような真核生物と細菌(原核生物)とではリボソームのサブユニット構造が異なるため、16S rRNA遺伝子は細菌に特異的なのだ。16S rRNA遺伝子解析には、16S rRNAの配列だけを拾ってその微妙な違いをあぶり出せるため、細菌の種類、系統、亜型などを正確かつ定量的に分類できるという強みもある。

 もっとも、今のところはまだメタゲノム解析が中心だが、既に驚くべきことが分かってきている。例えば、これまで無菌と思われていた羊水内にも細菌が存在し、早産などの妊娠中のトラブルに関連するかもしれないというのだ。国立成育医療研究センター研究所 周産期病態研究部部長の秦 健一郎氏らは、早産を起こした妊産婦の羊水中に、一般的な培養法では検出できない菌や、イヌやネコなどを宿主としてヒトにも感染する菌(グラム陰性桿菌)など、特定の数種が特に多くみられたことを突き止めている。

著者プロフィール

西村尚子●にしむら なおこ氏。1991年早稲田大学人間科学部人間基礎科学科卒業。専攻は細胞生物学。約10年にわたり科学雑誌『ニュートン』の編集に携わった後、フリーランスのサイエンスライターとして活躍中。主な著書に『知っているようで知らない免疫の話』(技術評論社)、『花はなぜ咲くの?』(化学同人)など。

連載の紹介

西村尚子の「サイエンス最先端」
ネイチャー アジア・パシフィックの特約記者や、サイエンス・メディア・センター(SMC)の非常勤スタッフとしても活動する筆者が、医療・医学につながる最先端の科学ニュースを、楽しく、分かりやすく紹介します。

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