イトウさんは78歳の女性。腹部に違和感を覚え、近所の診療所へ。そこでエコー検査を受けたところ、腹水貯留を指摘され、当院外科を紹介された。精査の結果、胃癌と診断されたが、胃以外の臓器には転移がなく、外科にて手術を行う運びとなった。しかし、イトウさんは元々不安が強い性格のため、精査入院の際に緩和ケアチームの介入を依頼された。
「もう年だし、手術なんて不安で……。でも、家族も『きちんと治してもらった方がいい』って言っていますし、頑張らないと」と、イトウさんはDr.ニシへ話していた。
精査入院退院後もDr.ニシの外来でフォローをしていたが、手術まであと2週間というところで、とある有名人が、イトウさんと同じ胃癌で亡くなられたというニュースが入ってきた。しかも、テレビに出ていた医師が、「胃癌という病気は、全部切り取れたように見えても、細かい病変が散らばっていることがある。今回、○○さんが手術後早くに亡くなられたのは、そのためかもしれない。無理な手術をしたことが結果的に死期を早めた可能性がある」とコメントしたのだ。このテレビニュースを見たイトウさんは不安になり、「先生、わたしやっぱり手術受けません!手術をしても○○さんみたいになってしまうんじゃあ……」といって、外来で泣き始めてしまった。
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著者プロフィール
西智弘(川崎市立井田病院 かわさき総合ケアセンター腫瘍内科/緩和ケア内科)●にし ともひろ氏。2005年北海道大学卒。家庭医療専門医を志し、室蘭日鋼記念病院で初期研修後、緩和ケアに魅了され緩和ケア・腫瘍内科医に転向。川崎市立井田病院、栃木県立がんセンター腫瘍内科を経て、2012年から現職。

連載の紹介
Dr.西&Dr.宮森の「高齢者診療はエビデンスだけじゃいかんのです」
多様な患者さんの姿をユニークに捉え、楽しみながら高齢者診療を行う宮森正氏の「経験から得た言葉や技術」を、それを支えるエビデンスと共に愛弟子の西智弘氏が綴ります。腫瘍内科と緩和ケアの統合を目指し、腫瘍内科・緩和ケア・在宅診療を、ケアセンター科が一括して担う川崎市立井田病院ならではの取り組みも併せて紹介していきます。
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