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Dr.西&Dr.宮森の「高齢者診療はエビデンスだけじゃいかんのです」

第18回
社会的孤立という病には社会的処方も一案

2018/11/13
西 智弘(川崎市立井田病院かわさき総合ケアセンター)

 スズキさんは73歳の男性。元々は、注文住宅の営業職をしていたが、60歳で定年を迎え退職。それを機に妻と郊外の一戸建てに引っ越した。子どもたちもそれぞれ独立し、長男、長女ともに離れた場所で暮らしている。定年後は、元々の趣味だった釣りに1人で出掛けたり、庭の草木の世話をしながら過ごしていた。

 70歳ころから徐々にもの忘れが始まった。約束の時間を覚えることができなかったり、買い物を頼むと買い忘れがしばしば起こり、帰宅が遅くなることも時々あった。心配した妻がかかりつけの医師に相談したところ、「軽度の認知症」と診断された。抗認知症薬を処方され経過を見るように言われたものの、本人は「認知症」と言われたショックからか、気持ちも落ち込み、徐々に外出もしなくなっていった。ささいなことで怒りやすくなり、妻が外出しようとすると「どこに行くんだ!」と怒り出す。結果的に妻の外出機会も徐々に減っていった。

 本人が落ち着いているタイミングで地域包括支援センターに相談し、介護保険を申請することに。認知機能の低下も軽度で、身体的には何も問題ないスズキさんは「要支援1」と認定された。地域包括支援センターからはデイサービスの利用や、健康教室などを案内されるが、スズキさんは全て拒否。「あんな年寄りばかりのところに行って何が楽しいんだ」「俺は介護を受けるような老人じゃない。あいつらとは同じにするな」と怒り出してしまう。時々思い立ったように「仕事に行く」と出ていこうとするので、「今日はお休みですよ」と妻が止めている。妻は最近、認知症高齢者が徘徊の結果、交通事故に遭ったというのをニュースで見て、心配になっている。


著者プロフィール

西智弘(川崎市立井田病院 かわさき総合ケアセンター腫瘍内科/緩和ケア内科)●にし ともひろ氏。2005年北海道大学卒。家庭医療専門医を志し、室蘭日鋼記念病院で初期研修後、緩和ケアに魅了され緩和ケア・腫瘍内科医に転向。川崎市立井田病院、栃木県立がんセンター腫瘍内科を経て、2012年から現職。

連載の紹介

Dr.西&Dr.宮森の「高齢者診療はエビデンスだけじゃいかんのです」
多様な患者さんの姿をユニークに捉え、楽しみながら高齢者診療を行う宮森正氏の「経験から得た言葉や技術」を、それを支えるエビデンスと共に愛弟子の西智弘氏が綴ります。腫瘍内科と緩和ケアの統合を目指し、腫瘍内科・緩和ケア・在宅診療を、ケアセンター科が一括して担う川崎市立井田病院ならではの取り組みも併せて紹介していきます。

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