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医師の絶対教養 ナショナル ジオグラフィック編

蘇生を願い、人体を冷凍保存する人々

2019/01/12
文=Daniel Stone/写真=Giuseppe Nucci/訳=北村京子

 ロシア、モスクワから北へ2時間ほどの距離にある小さな白い倉庫には、再び生を得る日を待ちわびる56人の遺体が収められている。遺体は完全に血液を抜かれ、マイナス196℃の液体窒素に逆さまに漬けられた状態で、100年先まで保存される。

 遺体の多くは、自然死を迎えた高齢者のものだ。ほとんどが生前にこうした処置をしてほしいと希望していた人々だが、一部には本人の死後、家族が愛する人のために3万6000ドル(約385万円)(頭部のみであれば1万8000ドル(約193万円))を支払って、遺体を冷凍保存したケースもある。保存期間は基本的に100年で、22世紀の科学の進歩状況によっては延長される可能性もある。(参考記事:インドネシア 亡き家族と暮らす人々

 科学の進歩を待つというのが、人体の冷凍保存、ひいては「トランスヒューマニズム(超人間主義)」と呼ばれる世界観の背後にある論理だ。がんや心臓病で亡くなったとしても、そうした病が存在しなくなった未来であれば、人は蘇生できるかもしれない。「彼らは技術の進歩を信じています」。人体の冷凍保存を手がけるロシアの「クリオルス社」の施設を訪ね、トランスヒューマニストたちを取材したイタリア人写真家のジュゼッペ・ヌッチ氏はそう語る。「彼らは、いつか誰かが自分を目覚めさせてくれることを望んでいるのです」(参考記事:人類進化の行方:4つの可能性を提示

モスクワ郊外にある液体窒素とドライアイスの工場で、霧に包まれて液体窒素タンクへの補充作業をする人々。ここはクリオルス社の元従業員が立ち上げた会社で、現在は同社に液体窒素を供給している。(PHOTOGRAPH BY GIUSEPPE NUCCI)

連載の紹介

医師の絶対教養 ナショナル ジオグラフィック編
世界180カ国で愛読され続けているビジュアル誌『NATIONAL GEOGRAPHIC』。100年以上の歴史を持ち、自然、動物、歴史、地球環境、科学、宇宙などの調査・探検プロジェクトを支援してきました。そんなナショジオの日本版ウェブサイト(naionalgeographic.jp)から、「地球の今」を切り取った写真を撮影秘話とともにご紹介します。

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