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トラブルを迎え撃つ心構え(その3)
繁盛している病医院ほど患者がモンスター化する

2012/08/13

 日々患者トラブルに接していて、最近、痛感するのは「患者の忍耐の許容範囲が狭くなっているな」ということだ。患者側の態度が、おかしくなってきている。

 「どうしてこんなことで怒ってしまうのだろう」「こんなことぐらいで、不満に思うのか…」と思わずにはいられない場面に遭遇するケースが増えた。「こっちは金を払っているんだから、偉いんだぞ。失礼があったら許さないからな」と言わんばかりの傲慢な患者も少なくない。

 1990年代、医療界に「患者様」という言葉が持ち込まれた。その頃から、患者の受診態度もおかしくなったような気がしてならない。

「遊び」がなくなったからギクシャクする
 「金を払っているのだから、わがままを全部聞け」という態度を取るのは、そもそも社会人の常識に鑑みてもおかしいし、暴論である。そういう患者の多くは、病医院を「医療サービスを売る店」と見て、このように接してくる。

 ご存じの通り、日本の医療サービスは、医療保険制度という公的保険の上に成り立っている。患者本人の窓口負担は徐々に引き上げられて、私のようなサラリーマンは現在3割負担となった。医療の利用料が高くなったことで、医療以外の他のサービスと同様に「費用対効果(コストパフォーマンス)」で評価する傾向が強くなってきたのではないかと思う。

 もう一つは、世の中の効率化、合理化、スピード化の進展である。ひと昔前なら、大阪の人間が東京に出張するときは必ず1泊したものだ。もちろん携帯電話などない。出張中は連絡が取れなくても仕方ないと、皆諦めていた。でも、今では東京出張も日帰りが当たり前だ。新幹線で移動中も、ノートPCや書類に目を通しながら忙しく仕事をこなしているビジネスマンをよく目にする(ちなみに、私は極力、何もやらないことにしている)。

 本来、仕事や生活を便利にするために生み出された機器・サービスによって、追い回されて余裕がなくなっている人や、そのテンポについていけず精神的に追い詰められている人たちが増えているのではないだろうか。

 車を運転する方なら分かると思うが、ハンドルにもブレーキにも「遊び」が必要だ。この「遊び」の部分がないと、急にハンドルが切れたり、ブレーキがかかったりして、運転がギクシャクする。「遊び」は運転をスムーズにするいわば潤滑剤といえるのだが、現代人も「効率」に追い回された結果、寛容さが失われ、コミュニケーションがギクシャクするようになってきていると思う。「遊び」がないから、ささいな感情のもつれがきっかけで怒りを爆発させるのである。

常連患者がモンスター化、その原因は?
 さて、そうした現状分析を踏まえて、注意を喚起したいのが、「繁盛している病医院は忙しい」ということだ。特に、医師がテレビに出演したり、病医院がメディアに取り上げられたりして患者数が急に増えたときなどは、患者トラブルの発生リスクもかなり高まっている。

 トラブルの相談を受けていて、結構目に付くのは、常連患者がある日、問題患者に一変してしまうパターンだ。その原因がサービスの不備にあるのならまだしも、関係者が思いもよらない小さなことだったりする。それを詳しく調べていくと、高い確率で同じような原因に突き当たる。それが「患者数の増加」という本来なら喜ぶべき状況だ。

 でも、冷静に考えてみてほしい。

 患者数が増えれば、おのずと患者1人に割く時間も短くなる。そうした状況で医師の説明不足が起き、患者が怒りを爆発させる、というパターンのトラブルが発生しやすくなる。そして待合でも、待ち時間が長くなることで、患者はイライラしやすくなり、トラブルが起こりやすい状況が生まれる。

 落ち着いて考えてみると、トラブル発生の罠がたくさん待ち受けていることが理解できると思う。治療実績がメディアに取り上げられた結果、患者数が増えたり、あるいはネットなどを使って自院をPRして患者を増やす努力をしたりすることは、もちろん悪いことではない。しかし、患者数をどんどん増やせばいいというものでもない。

 私は病医院には、医師・看護師の数や施設の大きさなどに応じて、1日に診ることができる適正患者数というものがあると思っている。その限度を超えて診ようとすれば、効率を追求しなければならなくなり、医師や職員は時間に追われていく。その過程で、患者からの症状の聞き取りなど、患者一人ひとりとのコミュニケーションがどうしても希薄になり、診療に関する情報の説明不足や誤解、そして話をちゃんと聞いてくれない医師・看護師への不信・不満が生じやすくなる。

 診療所の経営基盤を安定させるため、繁盛するのはいいことだが、そこには大きな落とし穴もある。実際にあった事例を見てみよう。

著者プロフィール

尾内康彦(大阪府保険医協会事務局参与)●おのうち・やすひこ氏。大阪外国語大学卒。1979年大阪府保険医協会に入局。年400件以上の医療機関トラブルの相談に乗り、「なにわのトラブルバスター」の異名を持つ。著書に『患者トラブルを解決する「技術」』(日経BP)がある。

連載の紹介

なにわのトラブルバスターの「患者トラブル解決術」
病医院を構えている限り、いつどんな患者がやって来るかわかりません。いったん患者トラブルが発生し、解決に手間取ると、対応する職員の疲弊、患者の減少という悪循環を招き、経営の土台が揺らぎかねません。筆者が相談に乗った事例を紹介しながら、患者トラブル解決の「真髄」に迫ります。
著者の最新刊『続・患者トラブルを解決する「技術」』好評販売中

 ますます高度化、複雑化する患者トラブルに、医療機関はどう対峙していけばいいのか。ご好評をいただいた前著『患者トラブルを解決する「技術」』の続編として、解決難易度の高い患者トラブルの対処法を体系的にまとめました。前著が基礎編、本書が応用編の位置づけですが、本書だけでも基本が押さえられるように構成しています。(尾内康彦著、日経BP社、2052円税込)

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