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医師免許を持つ研究者が最強なワケ

2016/02/10

 なぜ、これほど面白い基礎研究という世界に人材が集まらないのか。その誤解を解いて、言われなきデマに反論し、最終的に基礎研究の素晴らしさを伝道するというのが、私がこの連載を引き受けたモチベーションです。

 本来、医学部を卒業するときには、基礎研究か臨床医かを選択すべきなのに、ほとんどの医学生は、基礎研究という選択肢が存在することすら知らないのが現状で、「基礎研究?何それ?美味しいの?」という感じです。

研究者はリスクが高くて貧乏!?
 しかし、医学部低学年の学生さんの中には、たまに「研究に興味がある」という人もいます。しかし、そのような学生のほとんどが最終的には臨床医になってしまいます。何が彼らの研究への憧れをトーンダウンさせてしまうのでしょうか。

 それは「基礎研究はリスクが高い」「貧乏に耐えなくてはならない」という“負のイメージ”です。しかしこれは必ずしも正しくありません。その多くは、全く根拠のないデマの類ですが、その間違ったイメージに引きずられ、人生の大切なところで判断を誤るというのは、とても残念であり、愚かと言うほかありません。

 基礎研究がリスクの高い世界であることは否定しません。基礎研究は世界を相手に戦っているので、野球で言えばメジャーリーグに挑戦するようなものです。絶対に成功する保証はありません。しかし挑戦するに値する、発見の大きな悦びと、成功に対する大きな評価が待っています。

 基礎研究は一般的には“ハイリスク・ハイリターン”だと思われています。あえて言えば、綱渡りのようなものです。しかし、綱渡りの下に安全ネットが張ってあったらどうでしょう? 堂々と安心して綱を渡れるのではないでしょうか? 例えば、あなたの両親が大金持ちで莫大な遺産があるとしたら、基礎研究のリスクなど怖くはありません。または、配偶者が高収入の職業に就いていても、リスクは少なくなるでしょう。

 賢明な読者諸氏はもうお気付きだと思いますが、医学部卒業生にとっては、“医師免許”こそ、安全ネットそのものなのです。今の時代、医師免許を持っていれば、例え基礎研究の道で芽が出なくても、途中から臨床医へ転向すれば食うに困ることはないでしょう。もちろん臨床医としての実績は乏しいのですから、あまり高度な診療技術は得られないかもしれません。それでも研究で培った知識と思考力があれば、他の医師とは違ったものの考え方ができるでしょう。私も、3年間死ぬ気で臨床医学を勉強すれば、少なくとも理論武装では決して負けないと思っています(口だけの医師になる可能性も否定できませんが…笑)。

著者プロフィール

中山敬一(九州大学生体防御医学研究所細胞機能制御学部門教授)●なかやま けいいち氏。1986年東京医科歯科大学卒。理化学研究所、ワシントン大学などを経て、1996年から現職。主な研究テーマは癌の増殖サイクルと制御機構、神経の分化制御機構の解明。

連載の紹介

中山敬一の「ファンタスティックな基礎医学」
34歳の若さで九州大学教授に就任し、Cell誌やNature誌などに基礎医学研究の成果を次々と発表する一方で、世界に通用する一流研究者の育成にいそしむ中山氏が、若手医師に向けて基礎医学の魅力や一流研究者になるための条件を明かす。

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