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基礎医学の教員が他学部出身者だらけに!?

2015/06/03
中山敬一

 大学にはいろいろな学部がありますが、その中で医学部というのは非常に特殊な学部です。卒業生のほとんどが医師免許を取得し、単一の職業(医師)につきます。こういう学部は他にはありません。文学部を卒業して、実際に文学者になる方は非常に稀でしょうし、文学の知識が直接的に役立つ職業に就けるかというと、多くの場合はそうでもないでしょう。最も医学部に近い形態なのは法学部だと思いますが、それでも法学部の卒業生のうち、どのくらいの人が司法試験に合格して判事や弁護士になるのでしょうか?

 しかし、卒業生の大部分が医師になるからといって、医学部は決して医療専門学校ではありません。いやしくも医「学」というからには、単なる専門知識や技術を教授する場ではなく、学問を行う責務があります。学問とは千載不磨の大典ではなく、時代によって常に新しい発展が加えられていくべきものですから、医学部は実際に学問の成果を実践する「臨床医」だけではなく、学問そのものを発展させる「研究者」も同時に育てていく使命を帯びているのです。

 現在の医学は、過去に積み重ねられた研究成果の賜物です。今後も医学を発展させようと思えば、当然ある一定割合は医学研究に勤しむ人材を作らなくてはなりません。例えば自動車産業は、営業利益のかなりの部分を将来の車の開発研究に投資しています。そうしなければ、今は良くても未来は没落することを彼らは知っているのです。開発研究→成果の実践、というサイクルをバランス良く回すことがどんな分野にも必要です。医学も決して例外ではありません。

 しかし現状はどうでしょうか?

 皆さんの同級生で、卒業後すぐに基礎研究の道に入った人はいるでしょうか。たとえいたとしても、非常に少ないのは間違いありません。恐らく全卒業生の1%もいないでしょう。つまり全国で100人以下の人材しか、将来の医学を形成する基礎研究へ人的リソースを投資していないことになります。

 将来への投資を怠っている組織に未来はありません。基礎研究という重要な将来投資を海外に任せて、その果実たる臨床医学だけを行っている国、それが日本の現実なのです。例えば、最近大流行の分子標的抗癌剤の大部分は海外からの輸入で、日本発の新薬はほとんどありません。薬に限って言えば、膨大な貿易赤字を垂れ流しているのです。

 日本には医学校が約80校あり、それぞれの学校に基礎医学講座が30程度あります。各々の講座の教員定員が4人としても、それだけで約1万人の研究者が必要です。1研究者の研究期間が30年としても、年間約300人の新規参入がないと組織を維持できません。

 ところが、前述したように、医学部出身者で基礎研究を目指す人材は年間数十人しかいないのです。また、それら少数の人材も、必ずしも基礎医学者として大学に帰るわけではないのです。途中から臨床に行く人もいれば、他学部や研究所、または海外などに行く人もいます。畢竟(ひっきょう)、多くの基礎医学講座では深刻な人材不足に陥っています。

著者プロフィール

中山敬一(九州大学生体防御医学研究所細胞機能制御学部門教授)●なかやま けいいち氏。1986年東京医科歯科大学卒。理化学研究所、ワシントン大学などを経て、1996年から現職。主な研究テーマは癌の増殖サイクルと制御機構、神経の分化制御機構の解明。

連載の紹介

中山敬一の「ファンタスティックな基礎医学」
34歳の若さで九州大学教授に就任し、Cell誌やNature誌などに基礎医学研究の成果を次々と発表する一方で、世界に通用する一流研究者の育成にいそしむ中山氏が、若手医師に向けて基礎医学の魅力や一流研究者になるための条件を明かす。

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