日経メディカルのロゴ画像

発作ゼロ、副作用ゼロは当たり前。本当のゴールは○○ゼロ

2015/05/18
中里信和

 研修医の頃、脳神経外科の先輩から「手術してもらえるだけで幸せだとか、命が助かるだけで幸せとか言われてさ、脳外科医もずいぶん気楽な時代があったよ。今は難しい手術が成功し、めでたく独歩退院となってもさ、高次機能障害が残ったりしたら恨まれかねない時代だよ」と言われたことがあります。

 てんかん診療への評価も、時代とともに大きく変化しています。先輩のセリフをマネするなら「昔は、てんかん発作が週1回から年1回に減ったら満足とか、発作ゼロなら薬による多少の眠気は我慢といって診療してた時代があったよ。今は発作ゼロを2年続けて免許が取れるようになって当然だし、眠気やめまいなどの自覚症状が消えても、患者の悩みは多いんだから、助けてあげなくてはいけない時代だよ」となるのです。

遠くの専門医から、わざわざ紹介されて来たFさん
 Fさんは大手企業を退職したばかりの60歳代男性。予約してから3カ月も待たされた上に、自宅から4時間かけて、奥様と一緒に私の外来を初受診したのです。

「Fさんの主治医M先生は、てんかん専門医で私の友達でもありますね。紹介状には、発作ゼロで副作用もなしと書かれていますが、どうして私の外来までわざわざ来ることにしたのですか?」
Fさん「以前に先生が出演したテレビ番組を見て、ずっと来ようと思っていたのです」

 Fさんはご自身の闘病史を綴った分厚い紙束をバックから取り出し、話し始めました。

発作ゼロで、副作用もゼロ
 長くなりそうな話を、間の手をいれながら半構造化して聞き出し、30分ほどで病歴の概略を把握することができました。すべて紹介状に書かれたとおりで、Fさんの発作は典型的な内側型の側頭葉てんかんと考えてよさそうです。脳波やMRI所見も左側の異常を示しています。治療薬はカルバマゼピン。1日400mgで、けっして多い量ではありません。幸いにも、めまい、ふらつき、眠気といった用量依存性の副作用は出現していません。

 Fさんの発作には2つのタイプがあり、どちらも10歳代後半から出現しています。年1~2回の全身けいれんは、M医師の治療を受けるようになって、ここ10年は消えています。月1~2回あったボーッと意識が薄れて動作が停止する複雑部分発作も、ここ5年は消えているようです。

著者プロフィール

中里信和(東北大学てんかん科教授)●なかさとのぶかず氏。1984年東北大学医学部卒。東北大学脳神経外科研修医・同助手、カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部研究員、広南病院臨床研究部長・同副院長などを経て、2010年より現職。国際てんかん連盟ガイドライン委員会委員。

連載の紹介

中里信和の「てんかん科日誌」
有病率は約1%、日本では100万人もの患者がいるといわれるてんかん。その診療はここ数年で激変していますが、最適な治療に出会えずにいる患者の多くは人生を諦めたままでいます。筆者が経験した症例を紹介しつつ、患者の人生を変え得る「てんかん診療の喜び」を伝えます。

この記事を読んでいる人におすすめ